年末年始編 メイド喫茶は宴会場に変わる
『メイド喫茶 愛しのチェリー』では大掃除が行われていた。ブラックに頼んで、はしば達を派遣してもらいチェリー嬢の指揮で部屋の隅々までピカピカになった。
お手伝いの御礼をすると、忙しいはしば達は帰って行った。入れ替わるように、さっそくサファイア様がやって来て、お気に入りとなった舞台横のカウンターテーブルに陣取る。
また何かグリーンがやらかしたのか、新調したばかりのグリーン人形が美しい御足に踏まれていた。グリーン人形め、羨ましくないからね!
そのグリーンの通信が入る。少し前に女神様からの依頼で妖精達を手伝うやら、年末の大掃除がどうこう言っていた気がする。
「⋯⋯おケツが痛いの」
ブチッ。
サファイア様が苛立ち、通信が切られた。やはりどうでと良い連絡だったようだ。グリーンのケツが二つに割れようが破裂しようが興味はない。ブラウンに頼んで、イガグリをおケツに敷いておけば良いと思う。
「グリーン、何て言っていたの?」
新春特製の寿クリームソーダを運んで来たチェリー嬢も警戒を顕にする。とある報告時に、自分の存在が忘れ去られたと深く傷ついているのだ。新たな武器をブルーに頼んで造らないだけ忍耐強くなった。チェリーへの想いが
ただ、あまりにもくだらないので聞かないで欲しかった。話すとチェリー嬢より、サファイア様の御機嫌が増々悪くなるから。でも情報の共有は大事なので、仕方なくチェリー嬢にも話す。
「おケツが痛くておならが臭いんだって」
────ダンッ!!
サファイア様に蹴られて床に落ちたままの可哀想なグリーン人形が、チェリー嬢の履いているヒールに踏まれ、おケツから割れた。以前のものは、はしば達にあげたので、新しいはず。なのに‥‥女神様のストレスを一身に受けて、すでにボロボロだった。
どうやらグリーンのおケツが痛いのは、新調した人形に原因があった。グリーン人形の作成時に、辻堂氏とチクワ・ライダーのストレスで抜け落ちた髪の毛が混じっていたのだろう。
女神様の怒りが何らかの形で彼らへ向かう事になるのは必然だが、触らぬ神に祟りなし。ここはそっとしておくのがベストだ。しかし私もまた戦略的撤退に失敗した。
「チェリーちゃん、お酒ちょうら〜い♪」
最悪のタイミングで、酔ったイエローがゴールド様とやって来た。酒を飲むなら居酒屋へ行け⋯⋯と思うが、恩ある二人には逆らえん。すでにお酒が入り、流石のゴールド様も少し面倒そうな表情。握られた手を離せずにブンブンしている。
お怒りの女神様と、酔っ払いとゴールド様をもてなす必要が出来たようだ。オムライスやハンバーグやカレーでは駄目だ。それにイエローの目が完全に座るまで時間がない。ここは急ぎグリーンに珍味を探してもらおう。
走れグリーン! 君のおケツの呪いが解けるチャンスだ。私はメロスのかわりに人質にされたセリヌンティウスのように、命がけでこの祝宴を守るのだよ。
「────とは言え‥‥グリーンはどうせ漂流するよね」
探す役に立っても、獲得には役立たないのが彼の特性。だから実際に確保するには、適性ある人材を派遣するか人海戦術しかない。漂流している時間はないのだ。メロスかメロンかグリーンか。あやふやなものを待っていては、酒宴は終わる。豊富な知識と運気ゼロ。グリーンの能力の、どちらも信用しているからこそ、悠長に人質などやっていられないのだ。
「────パープル・シャドウズ集合! 至急お正月に相応しいつまみを集めるぞ」
結成したのはいいが、集まるばかりで何もしていないモブ戦闘員達を総動員する。メイド喫茶の横にはいつの間にかモブ戦闘員の集会場まで出来ていて、クリームソーダについて熱く語る議会まで開かれているという。
半ばチェリー嬢や女神様方のファンクラブと化している。年会費や会合の飲食代、グッズの収益は組織の資金源になっていた。
「年末年始はお休みのはず」
「ブラックブラック♪」
「はしば達もう一度呼ぼうか」
「レッドの横暴を許すまじ」
「グリーンに頼むが良い」
「だが断る」
「ホワイトに作ってもらおう」
「シイラに頼めば確実だよ」
「ブラウンなら栗が出せるね」
「納豆!」
「ブルーは静養中だよ」
「シルバーは忙しいぞ」
「ピンクの龍に願うのだ」
「グリーンに丸投げでよくね?」
「チクワライダーは?」
「コーラ姫なら塩辛くれるよ」
「もちもちはやきもち」
普段はヒィィーーー! と、言ってるだけのくせに、モブ戦闘員の中の人はうるさい。あと何名かバックれたな。数が足りない。騒がしいけれど、有益な情報がいくつかある。
「よしモブル7号よ、シイラの案内でホワイトの元へ向かい、黒豆とぶり大根をゲットして来るのだ。衣装は着てゆくのだぞ」
「ハッヒィィーーー!」
戦闘員の返事に商標権があるのか知らないが、軍隊調に額に右手をやりハッとポーズを決めながら、ヒィーで腕を水平にチョップするため、横にいるものにベチッと当たった。萌え萌えばかりにうつつを抜かしているからだ、まったく。
「モブル11号よ。ブルーの所にもスコーンやトマトソース、カオマンガイがあると言う。お見舞いのゲームソフトと交換して来るのだ」
モブ戦闘員服を着ていないと、子供にお使いを頼んでいる気になるが問題ない。
グリーンの情報を元に、つまみを探しに出た戦闘員はみんな漂流に巻き込まれた。もはやグリーンの漂流力は邪神の災禍に近い。本人が大変になるだけなので問題ないと思っていたが、時々力を解放し毒抜きならぬ漂流漂白しないと周りにも悪影響を及ぼすようだ。
ホワイトやブルーからは無事につまみを調達出来た。しかし、何か足りない。
「栗だよ。私の好きな栗が足りない!!」
今はもう冬だ。ゴールド様の満足するような栗は手に入らない。
「モブル9号。ブラウンはまだ?」
「年末年始のゲリラライブ開催で忙しいかったから飛んで来るそうです」
さすがブラウン、抜かりはない。てか、飛べるのか?
「空に向かって叫ぶと現れるそうですよ?」
「空?」
モブル9号から合言葉を聞き、みんなメイド喫茶の外へ出る。興味があるのか女神様達も一緒だ。メイド喫茶の横にはモブ戦闘員の施設の他にプールもある。何が現れても広いので大丈夫と思う。
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