元支部長リリィの自宅
「よし、完成だ」
アパート時同様、外装魔法を纏ったからといっても特に違和感などはない。
ただこの部屋には姿見があるので、せっかくだから外装魔法を纏った自分を見てみると、そこには大人リリィさんまんまの姿が映し出されている。
もしかすると、何年も付き合いのある親友なら気付けるかもしれないが、出会ってから1日も経っていないオレでは、本物と偽物の区別は全くつかない。
それと、この状態だと喋らないほうがいいよな。
「さっき肉感の話をしただろ。胸を触ってみろ」
そういえば女性化した自分の胸を触るって、性転換ものでは王道行為だよな。
ただオレは、揉む、ではなく、右人差し指で突き刺してみる。正直なところ、触れ慣れてはいるから、揉んで嬉しい、という感情ないんだよな。
……とか言ったら、巨乳好きからぶん殴られそう……
人差し指で突き刺すと、なんの感触もなく指が胸の中に入ってしまう。つまり、中は空洞ということ。
「今はもう帰るだけだから細かく作っていないが、代理人が貧乳だったらそこに肉感を作らなければならないという、無駄魔力を使用しなければならない。
それに加え声帯も作る上に遠隔ときたもんだ。
これはもう私をいじめているとしか思えない」
というか、そもそも悪さをしなければいいのではなかろうか? と、心の中ででツッコんでおく。
「では帰るか。もう疲れたぞ」
現状身分証は受け取れないので、事務室は通過するだけだったが、その中でヒノさんが働いているのが見えたので軽く会釈すると、ヒノさんは丁寧に返してくれた。
……ヒノさん、確か今朝帰る予定だったのに、支部長に巻き込まれてこの時間まで会議していたのに、さらにまた働いているのか……
これはもう、ちょっと心配、というレベルじゃないぞ……それとも社会人ってこれが当たり前なのか?
これが噂に聞くブラック企業というやつなのだろうか?
……就職ガチャ、失敗できないなぁ……
いや、もしこのまま元の世界に帰れなければ、オレは討伐員として生計を立てるのか? それとも別の場所で働くようになるのだろうか?
状況的にはもう学生ではないので、そこらへんを意識して周囲の職場をよく見てみようか……
リリィさんは相当疲れているのか、何度もあくびを繰り返し、遅めのペースで歩みを進める。
そのペースで感覚的に30分くらい歩いて到着したのは、うちと同じくらいの大きさの二階建て一軒家。
支部長クラスになると高級マンションにでも住んでいるのかと思っていたので、これはちょっと意外。
それに一人で住むにはちょっと広い……あ、もしかして実は既婚者とか?
しかしそれだと旦那は本当の姿を知っている?
もし知らなければ、オレが旦那の相手をすることになる?
……想像するだけで嫌なんだが……




