『300,000,000』
「おっと。ついつい我を忘れてトマトジュースを作ってしまうところだったわ。
また死んじゃって終わりになるのは勘弁よ」
オレが叫び声を上げたからか、女神は冷静になってオレの顔から手を離す……が、聞き捨てならないワードが聞こえた気がしたが……
また? 死?
「……はぁ……気合い入れて召喚したつもりなのに、なんでこんな変態能力者が釣れたのかしら……これでお金を稼げ、って無理でしょ……」
女神は冷静を通り越して落胆の表情を浮かべ、がっくりと肩を落とす。
感情の上げ下げが激しいな……
というか、
「あの……状況の説明をしてほしいのですが……」
夢、という可能性はとりあえず置いといて、これが現実だと仮定し、女神の話を聞いてから今後の身の振り方を考える。
現在、女神の落胆っぷりからして、オレの能力は女神の望んだものではないようなので、追放系に発展するフラグが立っている。
なので、詩音に似た雰囲気、あるいはそれ以上の不快感を感じそうな女神から離れられるのはむしろ好都合ではあるが、最悪自分の世界に帰れれない可能性だってある。
そうなると、なんとか自力で生きていく方法を見つけなければならない。
「ん……あぁ、そうね。
まずは『これからよろしく』の握手をしましょ」
と、女神は少し気力を持ち直し、右手を差し出してくる。
「…………」
それを見て、少し躊躇する。
おそらく詩音と同類で、見た目からは想像できないほどの怪力の持ち主だ。
この握手はフェイントで、現状に納得していない女神は、オレのことをなかったことにする行動をとるかもしれない。
「ほらほら。美人お姉さんだからって緊張しないで」
「ちょっ!? あいだぁ!」
と、オレがなかなか手を出さないことに痺れを切らしたのか、女神は左手でオレの右手首を掴むと、無理やり自分の前に持ってきてオレの手を開き、強引に握手する。
……すんごい痛い……粉砕骨折するかと思った……
「これで私たちは『お仲間』よ。
はいこれ」
「?」
そう言って笑顔……なんとなく邪悪な感じのする笑顔をみせつつ女神が差し出したのは、先ほど目にしたカード一枚。
手に取ると、大きさ、太さ、固さはキャッシュカードと同じくらい。
そこには何やら記載されているようなので内容を確認してみると、やはり日本語ではない文字で、名前、生年月日、見覚えのないおそらく住所、そしてマイナスのついた数字はゼロの桁が一瞬では判断できない『300,000,000』
いち、じゅう、ひゃく……三億……三億?
これが有名なステータス。つまりオレの魔力……ではないと思う。
先ほどの女神の言葉からして、まさかこれは……
「……これ、借金では?」
「せいかーい」
正解したくなかった答えに、女神は満面の笑みを浮かべて両腕を広げる。
「つまり、オレに借金を押し付けるために、ここに呼び出したってこと?」
もはや現実でも夢でもなんでもいい。
勝てる勝てないではなく、返答次第では我を忘れて殴りかかってしまうかもしれない。一般人であるオレには、それほどの額だ。
「違う違う。押し付けてなんかいないわよ。
ほら」
そういって女神はもう一枚のカードを取り出し、オレに見せる。
そこには同じように、名前、生年月日、住所、そして同じマイナスの数字が記載されている。
「わかりやすく言うと『連帯保証人』ってところかしら。
だから返済仲間としてこれからよしくね。
そのための握手」
そう言って浮かべる笑顔は、こんなクソみたいな状況でなければ数多の男心をくすぐるだろう。
ただし、オレにはお姉さん系の攻撃は効かない。