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リリィさんと二人きり

 そんな人生終了レベルの絶望感が脳裏をよぎるとほぼ同時に、リリィさんはとある部屋の前で立ち止まり、三回ノックをする。

 確かノックの回数にも意味があったんだっけ? よく知らないけど。

 何の部屋だろうか? と思いつつドアの上部を見ると『支部長室』と書かれたプレートが設置されている。

 なるほど。ここはさすがに冷静というべきか、今まで自由に入っていただろう部屋にノックを行ったことで、支部長ではない、と周囲に主張できる。

 この人のことだから、基本的に変わることはなく傍若無人に振る舞い、すぐにボロを出すのかと思っていたが、意外とそうではないのかもしれない。

 まぁこれ以上マイナスポイントを積み上げるわけにはいかないだろうからなぁ。

 ノックに対する返事はないものの、リリィさんはそこで数秒待てからドアを開け、

「失礼します」

 と、丁寧に入室する。

 ……オレも同じようにして入ったほうがいいのだろうか? ビジネスマナーとかよくわからん……

 そう迷っていると、中にはいたリリィさんが人差し指で、くいくい、と呼び寄せるので、

「失礼します」

 と、とりあえずリリィさんを真似て入室する。

 これが合っているのかどうかはわからないが、リリィさんは気にしている様子はなさそうだ。

 支部長室の広さは、先ほどの会議室のほぼ半分くらいで、窓際には支部長らしくちょっと豪華なテーブルと椅子。

 部屋の周囲には大量の本と資料、そして魔術が無造作に置かれている。

「ここは余程の緊急事態でない限り、いきなりドアを開けられることはない。

 盗聴チェックも毎回行っているし、協会規則に反する魔術の使用を行っても検知されないよう仕組んであるから、私の好き放題に魔力、魔術を使うことができ……ていたんだがなぁ……」

 さすがに今回の件でその権限を失ったからか、リリィさんはわかりやすく落ち込み、大きなため息をつく。

「それで、ここに来たということは何か最後にやり残したことがある、ということですか?

 それとも荷物整理でオレに荷物を運び出せ、とか?」

 荷物運びはいつもやらされているが、まさかこの部屋にある全て、とか言わないよな?

 どう頑張っても一度に運べる数では無い。

「いや、先ほどの話でもあったが、ちゃんとした手順を踏めば私はここへ自由に出入りできるから、荷物はそのままでいい。

 不正ができなくなっただけだ」

 ……はて? 先ほどの話? よく覚えていないけど、会議で決まったんだろうな。

 それに不正ができないのは当たり前だと思うけど。

「まぁ誰が代理人になるかはしらないが、代理人ごときが私の魔術錠を解除することはできないだろうからな。

 そんなことよりも、だ」

 リリィさんは言いつつ、ずぃ、とオレに近づく。

「やっと二人きりになれたな」

 そしてちょっと照れた感じで、上目遣いでオレを見上げる。

 ……これ、絶対裏があるやつだよ……お嬢様カフェでも何か頼み事がある時、こういうことをやってくる人が何人かいるんだよ……しかも超面倒なやつで、拒否権なしという人権無視……

 なので、リリィさんのこれは絶対に好意からくるものでないと、オレの経験則による姉系危険探知センサーが知らせている。

 そして間違いなく、そういうことが多発していから、姉系による色仕掛けが全く通用しなくなったどころか、嫌悪感を抱くようになったのだと思う。

 ……今更だけど、詩音だけではなく、お嬢様カフェの人たちって、オレをいじめて楽しんでるんじゃないだろうな?



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