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初めての?優しさ

「しぶ……あ、リリィさん。

 それでは明日からはちゃーんと、定刻に出勤してくださいね。

 今日はご苦労様でした」

「ぐぬぬ……」

 ヒノさんに言われ、リリィさんは悔しそうな表情を浮かべるも、ぐっ、言いたいことを我慢している様子。

 今までだと100倍にして言い返しそうなイメージだったが、さすがにあれだけトップ勢から釘を刺されると、こんな人でも我慢するんだな。

 そういえば、ご苦労様、って部下や目下の人に対して使うんだっけ? 自信ないな……

 お疲れ様、ご苦労様、この使い分けも社会人になったら、きっちり教えてくれるんだろうか?

 お嬢様カフェでのバイトでは、お疲れ様っす、で通用しているし『お客様がお嬢様を鑑賞するのを邪魔してはならない』というルールさえ守っていれば、詩音どころか店長すらその辺のことは特に注意してこないから、余計にわからない。

 それにしても、ヒノさんの切り替えよ。

 つい数時間前まで部下として接していたのに、リリィさんがヒノさんの下に就くことになった途端、これだもんな。

 それとも、社会人となれば年下の上司だって珍しくないだろうから、これが普通なんだろうか?

 ま、今そんなことを考えてもどうしようもないわけで……

「全部終わったようなので、オレは宿直室で休みます。

 お疲れ様でした」

 リリィさんという、ヒノさんとの二人きりの時間を邪魔する合法ロリが現れたので、楽しいお話しの時間もこれまで。

 体力も精神力も限界なのに、リリィさんの相手をしていると余計に疲れそう。

 ヒノさんは逆。癒されるけど。

 そういえば結局、今日1日元女神とは顔を合わせることはなかったな。どうせ宿直室には戻ってきていないだろうし、多分明日理不尽にキレられるような気がする……

 ……はぁ……寝る前から気が重い……

「あ、コウキさん」

「はい?」

 宿直室へ向かおうとしたところで、ヒノさんに呼び止められる。

「今日はお疲れ様でした。

 所属したばかりだというのに、リリィさんにこき使われてとても疲れたでしょう?

 今日はゆっくり休んでくださいね」

「あ……ありがとうございます……その言葉だけでも癒されます」

 こんな優しい言葉をかけられたのは、生まれて初めてかもしれない。

 ……あ、いや、さすがに母さんからはあった……よな……? あまり記憶にないな……

 詩音からは当然ない。

 それに加えて、クラスの女子からも優しく接してもらったことってなかったような……今更だけど、オレってもしかして異性から嫌われてんのかな?

「ふふ。私でよければいつでも応援しますよ」

 こ、これは……もしかして脈ありなのでは?

 いや、待て待て。焦りは禁物だ。

 ヒノさんのような優しい女性は、きっと誰に対しても優しく接するはず(目の前のリリィさんは対象外か?)

 決してオレが特別なんかじゃない。

 勘違いして告白して、きっしょ、とか言われた二度と恋愛できないような気がする。

 恋愛初心者オレ。もっと冷静に。もっと慎重に。もっと学ぶんだ。


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