女神による能力付与
「じゃ、次はこっちね。ほら、付いてきて」
先ほどまでの厳かな雰囲気から一転、満面の笑みを浮かべて今にもスキップしそうな上機嫌な女神とは対照的に、オレの心は不安が募るどころか、絶望すら感じている。
絶対にいい話ではない。笑顔で無茶言う詩音に散々こき使われてきたのだ。間違いない。
とはいえ、このまま放置して付いて行かないのも危ない気がする。そう、詩音の指令とは真逆のことを行い、後悔したあの日のように……
行きたくない。行きたくないが、行くしかない。
……はぁ……この短時間に何度決意を固めたことやら……
ルンルンの女神に付いて行き、到着したのは同じ建物内の一室。入り口には『会議室』と書かれてあるプレートが取り付けられている。
中に入ると先ほどの相談室よりもだいぶ広く、五十人くらいは入ることができそうだ。
折りたたみ式のテーブルは端に寄せられていて、余計に広く感じる。この広々とした空間に女神と二人だが、詩音による悪影響で、いわゆる『お姉さん系』には全くドキドキしない。
「あのー……もしかしてオレ、騙されて……?」
女神の要件を聞くよりも先に、先ほどのことを聞いてみる。本当のことを言ってくれるかはわからないが。
「いいえ。全く騙してなんかいないわ」
オレの問いに女神は堂々と腰に手を当てて、胸を張って答える。
「私の言っていたことは本当のことだもの。
あなたを選んで呼び寄せたのは私。
あなたの力が必要なのも本当。
そしてあなたに力を授けるのも本当。
それをこれからここで行うのよ」
嘘を言っているような感じは見受けられない。まぁ詩音もオレをこき使うときに『嘘』は言わないからなぁ……
大体ろくでもないことばかりだが。
「それってこの部屋みたいに広くないとできないから、わざわざ移動したと?」
「いえ。どこでもできるんだけど、言ってみれば『女神様の超常現象』だもの。通常、人に見られていいものではないわ」
「なるほど……」
言っていることは、一応納得はできる。
この世界の仕組みはどうなっているのかはまだわからないが、いきなり女神が現れた、とかなったあ大騒ぎになるかもしれない。
まぁ、まだ夢の可能性は捨てていないが。
「もしかしえ、その力を授けられると凄い魔法が使えるようになるとか?」
女神からの付与と言えばチート能力。これは鉄板だ。
「魔法とは限らないけどね。
本来、自分自身は何が得意なのか、というのはわからないもので、得意と思って生涯をかけて身に着けた技が実はハズレでした、なんてケースも珍しくないわ。
そこをこの私、女神の力を用いてあなたの潜在能力を見極め、それを顕現させるのよ。得意技術となれば成長も早いしね。
「確かに……」
言っていることは理にかなっている気がする。
スキルを選べ、とか言われて無数のスキルを並べられたところで、どれを選んでいいのか迷いに迷うはず。
自分の理想や直感で選ぶと結局扱いきれず、後々公開するかもしれない。
漫画とかなら、そんな技術もあっさり使えるようになるのだろうけど。
「さぁ、いくわよ」
「……あの……」
「黙って。集中できないでしょ」
「……はい」
能力を引き出す、とか言って、女神はおもむろにオレの顔を鷲掴みにする。
こういう時って、手を握るとか優しく抱擁するとか、あるいは魔法陣を出現させるとか、そんな神秘的なものだと思うのだが、なんでアイアンクローなんだよ……痛いし……
「……なるほど……なるほど……きた。きたわよ!」
「いだだだだだだっ!」
女神がオレの中の何かを感じ取るとともに、握力がどんどん強くなる。
「きたあああっ!
あなたの能力は『相手の衣服を破壊して防御力を下げ、尚且つ恥辱も与えられるという、アーマーブレイク! 回避は不可能!』ってなんでよっ!?」
「いだいいだいいだいいだいっ!」
納得がいかなかったのか、女神は猛烈なツッコミと共に、オレを掴む手に一層力が入る。