支部長に対する共通認識
「……で、では、この子もいることですし、先に戻って協会の方を連れてきます」
ヒノさんはそう言って少女の手を取り、子猫を抱えたまま階段の方へ向かう。
見送ったらオレたちは今きた道から撤収かな?
「……ところで、まさか、とは思いますが……」
ふと、ヒノさんは立ち止まり、こちらへ向き直って『支部長』つまりオレの方へ視線を向けつつ、口を開く。
「アパートを破壊したのは支部長……ではありませんよね?
以前同じように建物を一つ破壊した時、支部長は大変反省した様子でしたのであり得ないとは思います。
だからこのアパート倒壊は、犯罪組織が証拠隠滅するための行為ですよね?」
ヒノさんの表情は、疑いの眼差し、というよりも、もしかすると信じていた人に裏切られたかもしれない、という不安の表情。
こんなの見せられたら、オレなら懺悔してしまいそう……
「もちろんそうだ」
対する少女支部長は、微塵も疑う要素はないと言わんばかりに、胸を張って堂々と嘘をつく。まぁこれだけ堂々としていた方が真実味はあるか。
そういえば、詩音は嘘をつかなかったな。
どんな無理難題で矛盾が生じそうな件であっても、必ず実行する、あるいは実行させるため、結果として嘘にはならないという。
100万歩譲って、良く言えば『有言実行』だろうか。
「私はいち早くここにあった魔術の危うさに気づき、万が一に備えてこの『少女』を召喚したのだ。
この『少女』は特殊でな。魔術では防げない魔力攻撃を防ぐ魔法を使用できる。
なのでこれは私の切り札であり、普段は使用せず協会の人間でも知る人間はいない。いわばトップシークレットだ。
だから他の者に言ってはダメだぞ」
支部長は右手久し指を口元に当てつつ、やんわりとした口調で釘を刺す。
ここまでに支部長の魔法は一端しか体験していないが、多分『召喚』以外は多分本当のことなんだろうな、と思えるぐらいの迫力はあった。
まぁこの世界の基準がどのくらいなのか知らないけど。
「そうだったのですね。
私はてっきり、支部長が魔術欲しさにアパートを爆散させて相手を追い詰めようとした、なんて考えていたのかと思っていました。
失礼しました」
……それ正解です……というか、やっぱり疑ってたんだ……
支部長、やっぱり討伐協会内では信頼度低そうだし、討伐協会全体で支部長に対する共通認識なのではなかろうか?
「わかってくれればいい。
さて、私は他に危険がないか見て回ろうかと思うが、ヒノはその子を連れて早く戻った方がいいだろう」
いや、オレたちも撤収するんじゃないのかよ。協会の人がくるギリギリまで調べるつもりか?
「そうですね。私としたことがこの子の安全が最優先だというのに、余計なことを言ってしまいました。
それに支部長ですら簡単に解決できない問題となると、早速対策会議を開く必要もありますし」
「…………だな」
あ。ちょっと癪に触ったかな?
支部長は少々不機嫌そうな表情を見せる。
ヒノさん。もしかして少女が支部長だとわかって言ってるのかな?




