ヒノ・ヒナタの言い分
「わけあって魔力と声帯を捧げてこの『少女』を召喚しているため、私の言葉は間違いなく討伐協会支部長、アサヒ・カヨコの意思だと思ってくれて構わない」
なるほど。
支部長の名前はアサヒさんか。
召喚設定も魔法が存在する世界だから、通用しそうではある。
「そ……うなんですか?」
その証拠に、ヒノさんは明らかな不信の目で見ることはなく、その視線は女装オレと少女支部長の姿を行ったり来たりする。
「……でも雰囲気は確かにいつもの支部長ですが、このようなアジトに潜入してきた割には、いつもより少し大人しい気もしますが……」
……この人、いつもそんなにはっちゃけてるのか。
まぁ今までの行動を見てきたら納得できる。とはいえ、今から見様見真似ではっちゃけてみても、指摘された後ではむしろ怪しい。
まぁあとは支部長の話術次第かな。オレはもう知らない。言われた通り大人しくしていることにする。
「さすがの私もこの『少女』召喚で大半の魔力を使ってしまったからな。疲労感もある」
さすが支部長。嘘をつくことに慣れているようで、全く動じず、いけしゃあしゃあと言い放つ。
「そうでしたか……でもよかった……
まだ人が残っていたら、ただの事務員である私は戦うこともできず、この子を守り切ることができませんでした」
支部長の言葉に納得したのか、ヒノさんは安堵のため息をつく。
……偽物で申し訳ない……
でも安心してくれてよかった。
「それで、ヒノ。改めて聞くが、なぜお前がここにいるんだ?
答えによっては私も態度を変えなくてはならない」
支部長のその言葉に空気がピリつく。
考えたくはないが、少女を守っているとはいえ、この場所にいるのはさすがに不自然だ。
でも、それでもヒノさんを疑いたくはない。
頼むから支部長を納得させられる事情であってくれ。
「……私を疑う状況だということは十分に理解しています。
けれど、今から言うことは真実なので、できれば信じていただきたいのです」
「聞こう」
この位置からでもわかるが、支部長は最大限の警戒をしており、正面のヒノさんは凄まじいプレッシャーを感じているはずだ。
なんといっても、詩音がオレにガチ説教する時の空気と酷似しているからだ。間違いない。
「……アパートが倒壊……というか、吹き飛ぶのが見えたので、討伐協会へ連絡した直後、今まで絶対にないと確信をもって言える場所に、階段が設置されていました。
先ほども言いましたが私には戦う力はないので、本来なら討伐協会への連絡で私の仕事は終わるはずでしたが、この子が子猫を追いかけて階段を降りていく姿が見えたので、危険だと判断した私は慌てて追いかけたのです。
そうしたらこの場所に到着から程なくして、支部長がそちらのドアを開けた、という訳です。
あ、私たちが降りてきた階段はそちらに」
と、ヒノさんが指差した方向には、確かに上り階段が設置されている。
今のところヒノさんが嘘を言っているような雰囲気はない。
それとは対照的に、その言葉を聞いた支部長の圧が少し弱くなった気がする。
ヒノさんの言葉を真実だと判断したのだろうか?
「協会に連絡したのか?」
「え……あ、はい。わかりづらい場所だったので到着には少しだけ時間がかかるかもしれませんが、間も無く到着するかと」
「……よし。帰っていいぞ」
「え」
え?
急な心変わり……どうもヒノさんの言葉を信じたというよりも、協会の人たちがやってくることに焦っているような……
まぁこの惨状を見られたら、明らかに支部長が疑われるだろうしなぁ。
どう言い訳するんだろ?
あ、待てよ……その詰められる時ってオレも一緒だよな……
よし。すぐにヒノさんには帰ってもらって、オレも撤収だ。




