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階段奥、ドアの手前

「さぁ、ここからが本番だ」

 支部長は指先に蝋燭程度の灯りを灯し、階段を降りていく。オレは支部長から三歩ぐらい下がった位置をキープしつつ付いていく。

 問題の女装だが、詩音に女装させられた時は、いくら詩音の腕がよくても慣れない(次第に慣れたけど)衣服だったので気をつけながら歩いたが、今回の場合は外装という魔法だからなのか、女性の衣服を着用しているという感じはなく、視界も良好で歩きづらいなんてことはない。

 とはいえ、いくら支部長が施した外装が完璧であっても、知り合いには会いたくない。

 もし元女神にバレたら猛烈にいじってきそうだし、ヒノさんは気を使いながらも若干引き気味になるかもしれない。

 そんなことになったら、元女神のほうはどうでもいいが、ヒノさんに対しては全力の弁明をしなければならないから、今のうちに考えておこうか。

 というか、全て支部長がやりました、の一言で済みそうな気もする。

「……か……ひ……」

「……い……ぁ……」

 このアパートに侵入して初めての住人(?)の姿二人を発見した。

 これは支部長の魔法の効果だろう、二人を白目をむいて身体を痙攣させており、虫の息という言葉がピッタリ似合う。

 とはいえ、だ。もし犯罪組織の人間であっても、オレはその活動を目にしたわけではないので、目の前にいる人はまだ普通の人。

 これでもしこのまま苦しみながら亡くなってしうようなことがあれば、この光景を思い出して寝覚が悪くなりそうなんだが……

 平和な日本に暮らす高校生としては、この光景はキツイぞ……と、思わず目をそらしてしまう。

 そんなことを考えていると支部長は二人に近づき、

「安心しろ。視力も身体も三時間程度で回復するから死ぬことはない。手加減してやったからな。

 これに懲りたら次に私が何かを要求したら、無駄な抵抗はやめて素直に聞くことだな」

 と、くすくすと笑いながら蔑むように小声で言い放つ。

 声だけ聞けば先ほどまでの支部長だが、この見た目だといわゆるメスガキで生意気である一方、少女から放たれる声にしてはドスが効き過ぎていて、恐怖すら覚える。

 だが、その言葉はオレにも教えるような意味もあるとすれば、オレとしてはちょっと安堵のため息が漏れる。

 多分偶然なんだろうけど。

「邪魔ものはこれだけのようだな」

 狭い通路。灯りが届く範囲内には他に人の姿は見えない。隠し扉があれば話は別だが。

「ん」

 支部長はそれを確認すると顔をこちらに向け、顎を、くぃ、っと二人に向けて動かす。

 ……どゆこと?

 と、少し考え状況を見てみると、二人が倒れているのはドアの前で、そのドアは開戸であり、多分こちら方向に動かさないとドアは開かない。

 つまり、オレに二人を移動させろ? と、指差して確認すると、

「ん」

 と、支部長は頷く。

 ……なぜここは物理的な力を……さっきまでのように魔術や魔法で動かせばいいのに……

 と、声に出して文句は言えず、かといってオレが動かないと話は進みそうにない。

 仕方がない。逆らってもいいことはなさそうなので、指示通りに二人を動かす……って重いな……

 現在灯りは支部長の指先だけだなので気づかなかったが、二人は男性でかなりの筋肉質であり、体重も多分100キロは超えているんじゃないかと思うほどの巨漢。

 門番としてはうってつけかもしれないが、今はただ這いつくばる肉の塊であり、そんな二人を動かすのはとてつもなく重労働。

 途中、思わず声が漏れそうになるが、支部長はそんなオレを見て口元に人差し指を当て、喋るな、というジェスチャー。

 ……鬼か、こいつ……

 というか、こんな男丸出しの動作だとそれでバレるのではなかろうか? そもそも現在見た目は女性なのに、女性にこんな重労働をさせるか?

 まぁこれでバレたら支部長の責任だから、オレはもう知らない。

 などなど、次々に湧き起こる不満をなんとか抑えつつ、息も絶え絶えでなんとかドアが開く程度には二人を動かすことができた。

 すると支部長は満足そうに笑い、

「ノルドスト・ウィグ」

 発生っさせた暴風で、二人を上階へぶっ飛ばす……

「…………」

 さすがにこれにはオレも激不満顔を向けるも、支部長はそれを上回るかのような、少女に似つかわしくない、人を見下す畜生の笑み。

「私を『召喚』した罰だと思え」

 つまりは全裸にした罰、ってことか……

 自業自得だと思うんだけどなぁ……と、納得はいかないものの、この手の人間には何を言っても無駄。

 オレが泣き寝入りするしかないのは何度も経験している……

「さーて、それでは魔術とご対面」

 ようやく目的のものが手に入るからか、上機嫌な支部長がドアを開けると、そこには意外な人物が!



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