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急変

 運命を決める場所。

 そのガラスドアに女神は手をかざすと左右に開く。

 ……これ、異世界じゃなくても普通にあるよな……

 と、若干緊張感が削がれつつ建物の中に入ると、そこには鎧を身にまとった冒険者が……いなかった。

 入口正面の受付の女性は普通の、それこそ日本でも見かける役所の人、という感じで、目立たない程度の白いシャツに首から身分証を下げている。

 入ってすぐの右手側には『夜間受付』と書かれた部屋があるが、現在は明るい時間帯のためか、ブラインドが降りている。

 受付の奥や左方向を見ても、これぞ役所、といった感じで、残念ながらビキニアーマーや鎧を着こんだ人は一人もおらず、作業着やスーツといった普通の人ばかり。

 なんなら女神の法衣が一番目立ち、場違い感が半端ない。

 しかしそのとてつもなく目立つ法衣を着込んだ女神に対して、奇異の目を向けてくる人は一人もいない。

 これも演出なのか? それともこういう衣服の人は珍しくないのか?

 そんなことを思いつつ周囲を見渡すオレをよそに、女神と受付の女性はなにやら小声で会話をしているので、内容を聞き取ることはできない。

「こちらへ」

 二人の会話が終わると、今度は別の職員らしき女性がやってきて、付いてくるように促される。

 すると、人とすれ違う度に何やらヒソヒソ話が始まり、これには嫌な予感が最高潮に達する。

 やはり選択肢を間違えたか……?

 改めて不安を覚えつつ案内された入り口には『相談室』と書かれた小さな部屋。

 人が十人も入ればぎっちぎちになりそうな部屋の中央には四人掛けのテーブルが設置され、その上にはソフトボールぐらいの大きさの、青い水晶玉のようなものが備えられている。

 そしてその隣にはノートパソコンのような機器。ただし、本来キーボードのキーがある部分は真っ黒で、明らかにキーを使用して文字を打ち込むタイプではない。

 そもそもパソコンではなく、タブレットなら特に珍しくもないのだが……状況的にそんな言葉で片づけていいのか、非常に難しいところ。

「少々お待ちください」

 そう言って女性職員は椅子に腰かけ、黒い部分に二枚のカードを置き手をかざすと、黒い部分には何か紋様のようなものが浮かび上がる。

 仕草的には操作しているようにも見えるが……日本って今、こんな技術あったっけ?

「準備ができましたので、キリサキ・コウキさん。水晶に触れてください」

 ……なんの準備だよ……?

 何の説明もなしに『はい。わかりました』と、触れられるわけないだろ……

 あ、もしかしてこれが異世界名物『ステータス鑑定』というやつだろうか?

 それならおもしろそうではあるが、そもそもなぜオレの名前を知っている? 先ほどの会話で女神が教えていたのか?

 などと、様々な不安が脳裏をよぎり女神のほうに視線を向けると、女神はにっこりとほほ笑んで頷く。

 ……かわいい笑顔……だとは思うけど、なんとなく詩音の悪巧み実行中の笑顔がフラッシュバックするんだよな……

 しかし『やだやだ。オレ、こんなのに触りたくない』と、駄々をこねると周囲がものすごく白けると思う。

 まぁ覚悟を決めてここまで来たんだ。触れるしかない。感電死、なんてことがないよう祈らなければならないが。

 一つ息を吐き、水晶に触れる。

 少し暖かい。先ほど詩音から受け取った百円玉ぐらいの生暖かさ……と、嫌なことを思い出してしまった……

 冷静に考えて、弟にあんな色仕掛けはキモイだろ。禁断の愛、とかなら話は別だが、オレはいたってノーマルであって、姉属性以外の人と恋愛がしたいのだ。

「はい。間違いなく連帯されました。

 弟さんも大変かと思いますが、ご武運をお祈りいたします」

 女性職員のこの言い方からするに、やっぱり魔王討伐がんばれ、ってことなのだろうか?

 まぁ入り口に『魔物討伐協会』なんて掲げるくらいだし……

 ……嫌だぁ……痛いのとか嫌だなぁ……夢よ。早く覚めろ。

「……弟、とは?」

「はい。ご苦労様」

 聞き馴染みのあるワードの答えを聞く前に、女神は素早く二枚のカードを職員の手から奪い取るように手にして、まじまじと眺める。

「うんうん。ばっちりばっちり。それじゃあさっき言った通り、会議室を借りるわね」

「今回は事情が事情なので無料でお貸ししますが、問題を起こさないでくださいよ」

「わかってるわかってる」

 急に女神の口調が変わった。

 そして女性職員のオレに対する憐れみと、女神に対する呆れ顔。状況的に、こっちの女神が素なのか?

 もしかして……騙された?

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