意外と慣れている
「でもその格好じゃあ行動しにくいのでは? それに姿を見られるのもマズいんですよね?。
それともこの霧の中を行動するんですか?」
この霧の中は1メートル先の視界もないので、不意打ちすれば姿を見られることなく、相手を全滅させられそうだが、できれば、諦めて帰る、という方向に持っていって欲しい。
しかし支部長は、オレの言葉に微塵の迷いも見せない。
「問題ない。
私も流石に素っ裸を見られるのは恥ずかしいから、とりあえず衣服を巻いているが」
そう言いつつ巻いていた衣服を脱ぐと、黒を基調とし紫のフリルがついた、いわゆるゴスロリワンピースを着用していた。
まさか大人用衣服の中に隠していた? というわけではなさそう。
「それも魔法……さっき言っていた外装ですか?」
「魔力を身に纏う、という点では同じような魔法だな。体系を細かく分類すると違う魔法だ。
細かく説明してやりたいところだが、今はそれどころではないからな」
説明大好きっぽい支部長でも、さすがにこちらの状況を優先するようだ。
正直なところ、これぞ魔法らしい魔法、なので、ちょっと聞いてみたいとは思った。
元女神の衣服復元は、天界の力を使ったらしいというとんでも現象だったし。
「それでも結局オレといたら、隣の少女は支部長かもしれない、と疑われませんか?
先ほど外装は自分の大人の姿を具現化したもの、って言ってた通り、やっぱり面影もありますし」
確かにこの少女が成長すれば、外装のような姿になろうだろう、というのは用意に想像ができるレベルだ。
ただ、胸はあそこまで成長するだろうか? とう疑問はある。
触れた感じ、外装だから偽物っぽかったのか、そもそもあそこまで成長する予定はないので、魔力で想像して作ったから偽物っぽかったのか?
ま、直接言わないけど。
「そこも考えてある。
つまりは『私』が『私』だとバレなければいい。
例えば、弟くんを依代として『私』を召喚した、という設定にする」
「……依代……ですか」
漫画でもたまに出てくる言葉なので、なんとなく理解はできる。
感覚的には、憑依とか他人に体を乗っ取られるとか、そんな感じ。
「君は大人の私よりも身長が高いが、並んで見なければ大した問題にならない。
あとは見てくれをどうにかすればいい」
「……まさか、とは思いますが」
「その、まさか、だよ」
支部長はそう言ってオレに向けて手をかざすと、周囲の霧の一部がオレの周囲に集まってくる。
暑い、冷たい、苦しい、という感覚は一切なく、ただ周囲に霧がある、という視覚的なものだけ。
「うん。やはり『私』は美人だな」
「……や」
「しゃべるな。声帯まで作っている時間はない」
「…………」
女装……だよな? 多分支部長の姿。
女装そのものは詩音から理不尽な『罰』として何度かやらされたことがあるので、慣れたくはないが意外と慣れている自分が怖い……
直近では先月で、その日の『罰』は、女装を終えると一緒に女性用下着を買いに行き、詩音がサイズを測っている間は一人待たされるという地獄。
一応詩音が手を抜かない限りは周囲にバレたことはないが、両親だけはバレた。
その時は、やっぱり子供のことはわかるんだなぁ、と感心したものだが、今となっては、魔力探知でも使ったのではないか? と、もう家族に対しても疑心暗鬼になっている自分が悲しい。
今回は魔法による女装、それに支部長が『自分は美人』と言っていたので、精度は高いと思われる。
それでもせめて鏡で確認したい。けど、鏡どころか壁さえないんだよなぁ……




