支部長の体温
「さて、時間に余裕があればギミックを解除して遊んでやってもいいのだが、今現在、クソ雑魚ごときが隠し部屋から監視しつつ私を嘲笑っているかと思うと、腹が立って仕方がない」
私……って、オレがそれに含まれていないのか……
支部長の表情は一見笑顔にも見えるが、怒っている時にも笑顔になる。それは詩音で体験済みで、怒りレベルとしてはかなり上位だ。
あの重圧は二度と経験したくない、と思わせるには十分出来事だった……
「なので制裁を加えるべきだろう。
弟くん」
起こる支部長は人差し指を、クィ、と軽く二回曲げ、オレを呼び寄せる。
「あ……はい……」
これを断る選択肢はない。
支部長的には誘拐の件で怒っているわけではなく、舐められたことで怒っているようだ。
その仕返しが、ここに比べて平和な日本であれば、詩音のビンタを食らうぐらいで済むが、魔法が存在する世界、加えて優秀らしい支部長の機嫌を損ねたとなると、何をしでかすかわからない。
まぁ結果的に誘拐犯に罰を与えることになるのであれば、オレ的にも止める気はない。
昨夜はたまたま女性の方が強かったのでことなきを得たが、被害にあった人はどのくらいいるのだろうか?
そう考えると、ここで痛い目を見るのはしかるべき結果と言えるどころか、是非とも痛い目を見て欲しい。
「ここが誰も踏み入れたことのない、伝説的な場所なら私も喜んでギミックを解除するだろう。
だが、今はクソ雑魚どもの監視下の中だと推測する。なら目に物見せてやるべきだ。
こっちへこい」
「……はい」
ストレスマックスの支部長が向かったのは、元女神が破壊したドア。
そしてそこに貼られている立入禁止テープをツールバッグから取り出したナイフで切り裂き、中へ侵入する。
さすがにここまでやると討伐協会や各所を誤魔化すことは不可能だろうが、支部長には何か考えがあるのだろう。
でもオレは関係ない。支部長に脅されて仕方なくついてきた……討伐協会なら信じてくれるはず。
そう期待しつつ、支部長に続いて『外れ部屋』と言われた部屋に入ると、やはり昨夜見た四部屋ブチ抜きの空間。
本当は隣にも部屋があるはずなのに、魔法、魔術って本当に凄いと、改めて感心する。
オレももっとまともな魔法が使いたいなぁ……
「これを部屋の周囲に。できるだけ均等に設置してくれ。
それと四本は部屋の四隅だ」
「はい」
普段なら気乗りはしないが、犯罪者撲滅という名目なら協力する。あとは討伐協会の方々が信用してくれるのを祈るのみ。
支部長がツールバッグから、駄菓子のうまそうな棒を思い出すような大きさぐらいの黒い棒を取り出し、それをオレに手渡し、オレは言われた通り設置していく。
その間、支部長は何か気になっているのか、部屋の中央に移動し、そこから周囲を見渡している。
「できました」
設置し地ている間にも不思議に思ったが、本来隣に部屋がある場所にも普通に侵入できた。
一体どういう魔法、魔術なのだろうか? 空間をねじ曲げるとか、別世界を作り出すとか?
「ご苦労。では私に近寄れ」
「……はぁ」
言われた通り、支部長の隣に立つ。
「もっとだ」
「……はい」
支部長に言われ、肩が触れる直前ぐらいまでに近づく。
「……もうちょっとだな。片腕を失いたくなければ私に抱きつくぐらいに近寄れ」
「……わかりました」
怖い。何やろうとしてるんだ? この人は……
とりあえず言われ通り、支部長に密着するぐらいに近づく。
するととてもいい匂いで、肌の柔らかさを直に感じるが、やはり詩音とは違い、何か違和感がある。
詩音に密着したときは、なんというか……母性を感じる暖かさというか、極端に言ってしまうと人間味があると言うか……
それに対して支部長の肌は、なにか体温とは違う冷たさを感じる。
ロボット……ではないと思うが、人間味を感じないと言うか、やはり作り物なんだな、と確信するような……




