魔物討伐協会・支部長の仕事
「私を懲らしめることができる魔法がどのようなもか気になるところではあるが、緊急の用件も片付いたことだし、今日のところは帰るとする。
さぁ行こうか。しっかりエスコートしてくれよ」
「……はぁ」
気は進まないが、協力すると言ってしまった……いや、脅しに負けて言わされた以上は断ることはできないし、断ったところで支部長の実力を考えれば、逃げ出すことはほぼ不可能。
「お疲れ様でした」
ヒノさんは忘れ物を取りに戻ってきたと言っていたが、支部長を気にしつつもヒノさんの方をチラチラと見ていると、オレたちの姿が見えなくなるまで建物内に入ることはなかった。
もしかするとオレからの視線に気付いて入るに入れなかったのかもしれないが、ヒノさんの性格的に、厄介者であっても上司には変わらない支部長を見送っていた、とも考えられる。
あるいは、ヒノさんの言葉の強さから察するに、万が一にも現場方向へ向かわないように監視していた、という可能性もありそう。
支部長は支部長で、
「あいつ見ているな。少し遠回りしろ」
と、小声で指示を出してくる。
お互いに警戒し合うとは……
大丈夫か? この組織……
内乱勃発を心配しつつ、ヒノさんの姿が見えなくなったところで、改めて現場方向へ向かうことに。
「質問なんですが」
「なんだ? スリーサイズぐらいなら答えてやるぞ。
なんといっても私ぐらいの皆が羨む容姿ともなれば、わざわざ隠す必要もないしな」
「……そっすか」
まぁヒノさんぐらいの体型なら同性でも言い淀むかもしれないが…………というか、男性に対してはっきりと答えるほうが稀だと思う……支部長ほど容姿端麗なら逆に自慢したいところかもしれない。
詩音の場合は『他者』には厳しく、調子に乗ったヤンキーが詩音のサイズを聞いたところ、強烈なビンタを喰らって地面とキスする羽目になっていた。
それに対して都合よく動く『身内』に対しては……まぁ弟のことだが……下着や衣服をちょくちょく買いに行かされていたので、ある程度見た目だけでサイズの判断がつくように、いつの間にか教育されていた。
そのため支部長のサイズもわざわざ聞かなくても、大胆の数字はわかるが、先ほどの感触からして本物かどうかも怪しい。
さすがに魔法で偽物の肉体を作られていては、本当のサイズを見抜くことは不可能だ。
「支部長は先ほど出勤してきたみたいですが、働かなくてもいいんですか?」
世の中には様々な職種があり、働く時間は職種によって様々ななことは承知しているが、社会経験の浅い高校生の抱くイメージは『サラリーマンは朝に出勤して、夕方、あるいは残業して終電まで働く』だ。
両親がまさにイメージ通りで、母はスーパーでパート、父は普通のサラリーマンで早ければ夕食の時間には帰宅しているし、たまに朝帰りなんてこともある。
詩音曰く『浮気の気配は感じられない。家族のために働いている』だそうで、詩音が言うのであれば間違いない。
「もちろん内勤も行うが、見ての通り私のような若さで今の地位に登り詰めるためには、様々な仕事をこなさなければならない。
例えば、魔物討伐協会なので討伐指示はもちろんのこと、直接討伐に赴くことも少なくないし、魔物の生態系を調べてより有効かつ効率的な討伐方法を考えることも多い。
そのためには現地に赴いて調査をしたほうが机に向かって想像するよりも、圧倒的に効率がいい。
それに今の時代は昔と違って連絡手段に困ることはほぼないと言っていい。
だからどこにいても仕事さえちゃんとしていれば問題ないのさ」
「なるほど……」
これには反論の余地はない。
厄介な人なのは間違いないが、それを補うほど優秀な人なのか。
「だから大抵のことは『調査のため』と言っておけば、上の人間も納得せざるを得ない。
上だって私のような美人で優秀な人間を手放したくはないだろうからな」
オレの感心を返せよ。
というか、やっぱりこの人、元女神と同じ匂いがする。
もちろん体臭という意味ではなく、自分の容姿に自信があり、自分の利益のためなら嘘だって平気でつくし、他人を最大限こき使う。
こんなどうしようもない知人ばかりができるのなら、衣服を破壊する魔法でなく、築いてしまった人間関係を円滑に破壊する魔法が習得できていれば、どれほどよかったことか……と、言い出したらキリがないほど、現状に絶望している。




