魔物討伐協会『支部長』という厄介な人
「それで支部長、緊急の要件でしょうか?」
「あぁ。ちょっと確認したいことがあってな。それも無事終わったからこれから帰ろうかというところで、問題娘の弟くんと偶然出会ってな。
これから散歩に出かけるというから、ついでにか弱い私の護衛を兼ねて家まで送ってもらおうかと思っていたところだ」
支部長は容姿端麗でとても強そうには見えない。が、この魔法が存在する世界ではそれは通用しない。
先ほど強制された猥褻でオレの手を掴む力は、見た目よりもはるかに強かった。
なお、それを魔法なしでやる詩音も今更ながら、どうかと思う。
なぜただの平手打ちで、筋肉質の男が宙を一回転するのか?
コレガワカラナイ。
隠れて合気道でもやっていました。なんて言われても到底納得できるものではない。
……もしかして詩音は異世界からやってきた……なんてことはないよな?
……いや、オレや詩音が産まれた時の写真は両親が大事に残してある……待てよ……両親、あるいはどちらかが異世界からやってきた?
……あり得なくもないよな。
それはさておき、支部長の苦しい理由にもヒノさんは特に表情を変えることはなかった。
これが普通な人なのだろうか?
「そうでしたか。しかしこの世界で支部長よりお強い人がいるとは思えないので、護衛は必要ないかと思いますが」
ほら、やっぱり強いんだよ。
ヒノさんは笑みを見せつつ冗談混じりに言っているっぽいが、強さの規模を町や国ではなく『世界』と言っているあたり、相当な実力者であることは間違いない。
「まさか、とは思いますが、単独で今回の現場に向かうための準備をしていた、というわけではありませんよね?」
あ、やっぱり疑ってたんだ。
「前回のこともあってしばらくは『支部長には現場の場所を報告しない』という決まりになったこと、お忘れになってはいませんよね?」
ヒノさんは変わらずの笑顔で問うが、その圧は明らかに厳しいものになっている。
なるほど。だから支部長は場所を知っているオレを捕まえたのか。
というか、この人、前回なにやらかしたんだよ?
もしかすると、元女神以上にやっかいな人なのではなかろうか?
「わかっている。私だって数時間に渡る説教や始末書、反省文の朗読なんて懲り懲りだからな。
本当にこれから帰るだけだよ」
なぜこんなにも平然と嘘がつけるのか?
もう厄介というよりも、人としてダメなのでは?
オレはこんな人間にこれから関わらないといけないのか?
まーじで、異世界に来てからヒノさん以外のまともな知り合いができないな。あ、居酒屋にいた人たちはいい人っぽかったけど。
「あの朗読は反省が全く感じられませんでしたけど……
そうだ。もし支部長が悪さをしようとしたら、コウキさん、遠慮なく懲らしめちゃってください」
「え? オレですか?」
意外なご指名。
これは頼られてる?
「はい。アイリさんの衣服を破ったことは本当は問題行動ではあるのですが、警告でも懲りない支部長に対してなら、多少痛い目を見てもらっても協会の皆さんは納得してくれると思います」
どんだけ問題起こしてるんだ、この人。
マジで元女神かそれ以上の厄介者っぽいのに、それでよく今の立場をキープできているな。
いくら実力者であっても、人格破綻者が上司の職場って嫌すぎると思うんだが……社会に出ればそれも仕方のないことなのだろうか?
……詩音が上司……考えただけでも吐き気がする……
「わかりました。ヒノさんがそういうのであれば、全力を尽くしたいと思います」
オレに非がないことが認められる状況でなければ使用しないと考えていたのだが、ヒノさんがここまで言ってくれるのなら躊躇なく使用できる。
元女神のような考え方だが、これはヒノさんに対するオレの好感度を上げるチャンスでもある。
ちょっとやる気出てきた。
「ほほう。それは面白そうだな」
それを聞いた支部長は萎縮するどころか、ニタリと笑う。
できるものならやってみろ、という感情に思えるが、油断してたとはいえ元女神にも通用した魔法が、いくら世界のトップクラスであっても人間に防げるとは思えない。
……でも何度でも思うけど、もっとかっこいい魔法がよかったなぁ……




