思案……からの決断
「出られないようでしたらお手伝いしましょうか?」
と、オレが窓から外へ出ることを躊躇していると、先に出た女神が右手を差し出す。
出られない、というよりも、出たくない、が正解かな。
悪戯にしては大掛かりすぎる。まさか目の前の景色がセットというわけではないだろうから、少なくともオレが寝ている間に車を使用してここまで運んできたことになる。
車そのものはお嬢様カフェの大人の人が用意できるだろうが……いくら詩音の許可を得ているからとはいえ、誘拐スレスレなのでは?
もしくは……本当に誘拐されたか?
玄関を出た瞬間に襲われて、その時の記憶がぶっ飛んでしまっているのか……
……もしかすると逃げた方がいいのかもしれない。
そう思ってドアの方へ視線を向けよく見てみると、ドアチェーンがかかっており、向こう側から開けることができないようになっていた。
となると、これはオレを監禁するためではなく、この倉庫に入られては困るため。そして出る際は窓から、ということは不法侵入だった、ってことか……
目的がわからん。
詩音の悪戯なのか、あるいは誘拐だが誘拐されていると思わせないための演出なのか……
…………いや、これは夢だ。夢ならこんな無茶苦茶な展開でも許される。そうに違いない。
どのタイミングで寝落ちしたのかは気になるところだが……
「どうしました? もしかして思っていた異世界のイメージと違いましたか?」
と、オレが女神の手を取らず目が泳いでいることが気になったか、女神は一度外の景色を見ながらそう口にする。
「……確かに。異世界と言えば中世ヨーロッパ風の世界観のイメージで、一目で剣士や魔法使いだとわかる人が行きかっている、というイメージですが……」
窓の外に見える行きかう人たちは工場地帯、ということもあってか、作業着姿の人が多く見受けらえるも、スーツ姿の人もちらほら見えるし、普通に私服姿の人も見える。
その中に剣を携えた人や、魔法使いらしい黒いローブを身にまとった人など一人もいない。
さらに言えば自動車だって普通に走っているのだ。
この光景を見て、ここは異世界、と信じる方に無理がある。
「ここはこういう世界なので。
気になることがあれば説明しますので、まずは目的地に向かいましょう」
と、女神は促すが……
一。これは夢である。詩音の催眠術で見ている夢である。
二。やっぱりドッキリで、オレがあたふたしている様子を詩音が楽しんでいる。
三。これは誘拐の可能性がある現実なので、逃げる。ドアチェーンは簡単に外せそうなので、女神が外に出ている間に素早く扉の向こうに逃げる。
ただし、向こう側に何があるのかわからない。
四。本当に異世界である。ただ、転移の方法がはっきりしない。もしかすると即死の衝撃でその時の記憶がすっぽり抜けているのかもしれない。
考えたくはないが、三だった場合、次は暴力に訴えられるかもしれない。
四だった場合、ここで女神に付いて行かなければ孤立する可能性がある。
であれば詩音のどっきりのほうが、まだ可愛げがある。
……付いて行く、か……
「……行きます」
渋々ながらも決心し、オレも窓を乗り越えて外へ出る。