お姉さんの正体
「それで、どんな」
「ちょっと待った」
さらに詳しい話を聞こうとしたところで、お姉さんは掌をこちらに向け、待った、をかける。
「その他もろもろは問題娘から聞いてくれ。
私もちょっと急ぎでな」
「あ、すいません」
考えてもみれば、夜勤のヒノさんが先ほど帰宅したということは、日勤の人がやってくるはず。
それに、元女神の事情にも詳しいみたいなので、このお姉さんは協会職員なのかもしれない。
そうなると、さすがに遅刻させるわけにはいかない。
社会人は遅刻が嵩んだりすると給料が下げられたりとかするんだよな?
仕方がないので、詳しい話はこのあと元女神から聞くしかない。
既に職員から事情を聞いた、と言えばさすがに誤魔化さずに話す……よな?
「それじゃあオレは散歩にでかけるので」
「ちょい待ち」
改めて散歩に出ようとしたオレを、急ぎのはずのお姉さんが右手を伸ばして、オレの左肩を掴む。
あー、嫌な気配。
「弟くん。君も昨夜は誘拐犯の現場にいたんだよな? ちょいとその現場連れて行ってくれないか?」
ほぅら。厄介ごとがやってきた。
「……えと、それだったら協会職員に聞いてもわかるのでは? 昨夜はその件でバタバタしてたみたいですし」
「ちっちっちっ」
オレの提案にお姉さんは舌を鳴らしながら、左手人差し指を顔の前で左右に振る。
「バレてしまうだろ」
職員じゃなくて、ヤバい人だったか。
「過去に権力を濫用して事件現場から貴重な魔術を持ち出したものがいて、それが発覚して以降はいくら討伐協会支部長クラスであっても、単独での現場検証は禁止となっている」
いつの世も、どこの世界でも権力を悪用する人はいるんだなぁ。
「いやいや。それならちゃんと筋を通せばいいでしょう? 協会関係者なら事情を話して数人で行けばいいでしょうに」
「だから、筋を通したら現場から持ち出すのがバレてしまうだろう?」
……やっぱりヤバい人だった。
「それをオレに話している時点でダメなのでは?
さすがに協会の誰かに問い詰められて平然といられるとほど、精神力は強くありませんよ?」
詩音に逆らって嘘をついてもすぐにバレてしまう。
もしかすると、問い詰められるとすぐに顔に出てしまうタイプなのかもしれない。
自分では結構がんばっているつもりなのだが。
「そうか。それは残念だ。
協力してくれれば宿直室の使用期限の延期に加えて、使用料を免除してやるつもりだったのだが」
「な……」
それは魅力的である。
現状、本当に一文無しなので、宿直室を追いやられると野宿しか選択肢がない。
昨日の誘拐事件を見る限り、ここら辺の治安はあまりよくないように思えるどころか、あのアパート一棟を改造するような犯罪組織があるぐらいだ。
下手に野宿なんてしていたら、魔物の餌、とか言われて連行されかねない。
なので、なとしてでも安全な室内を確保したいところ。
それに、あの女神のところにいたら、いずれ逆恨みで刺されそうなんだよな……いや、至近距離からの攻撃ならもしかするとかわせるかもしれないが、遠距離から魔法を撃たれたら終わりだ……
なのでお姉さんの提案は魅力的ではある。が、
「それはあなたにそれだけの権力がある、と?」
元女神が宿直室に寝泊まりしていることは、おそらく職員全員が知っているはず。なので権力者のフリをして適当な餌をぶら下げているのかもしれない。
「そう言えば私の素性を明かしていなかったな。
私はこういうものだ」
そう言ってお姉さんは懐から社員証のようなものを取り出す。
当然日本語で書かれているわけではないが、普通に読める。
支部長。
アサヒ・カヨコ。
と。
美人お姉さんの権力者きたあ!
と、魂の叫びをあげたいところだが、日本にだってその手の人はいっぱいるはずなので、別にこれは異世界の定番要素とは思っていない。
強いていうなら、ありがちな展開、だろうか。
で、この身分証が偽造でない限り、先ほど言った好条件は実行される……かもしれない。
あとから『そんなこと言ったっけ?』とか言って、罪をなすりつけられても困る。
……どうすっかなぁ……




