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詩音の呪い

「あ、仕事終わりでこれから帰るんですよね? 引き止めてしまってすいません」

 もうちょっとヒノさんと話していたいが、これ以上引き止めるわけにはいかない。

 もしかすると内心では『眠たいから早く帰って休みたいのに』と思っているかもしれない。

 これが親しい友人なら、お構いなしに『これからご飯でも食べに行こうぜ』と誘えるのだが、まだまだ出会って間もない他人。

 これ以上好感度を下げるわけにはいかない。

「いえ、私の方こそ引き止めてしまって。これから散歩に行かれるのでしたよね?

 それでも昨夜のこともあって疲労が溜まっていると思いますので、あまりご無理はなさらないようにしてくださいね。

 それでは私はこれで失礼しますね」

「はい。お疲れ様でした」

 本当は『散歩ついでに家まで送りますよ』と言いたいところだが、ヒノさんがオレに多少でも好意を持っていない限り、ドン引きされること間違いなし。

 なのでお互い言葉を交わした後は、ヒノさんは帰路に、オレはストーカー疑惑を持たれないために、ヒノさんとは反対方向へ歩いて行こうかと思う。

 それにしても、一目惚れって本当にあるんだな……いや、この感情が好意かどうか、実はよくわからない。でも、かわいいなぁ、とかは思ったりはする。

 今まで詩音のこともあって、恋愛感情を抱く余裕はなかったので、ラブ、という好きがどういうものか、正直よくわからない。

 しかも好みの女性と出会うことは皆無だったという、これも詩音の呪いかと薄々思い始めている。

 それが異世界に来た途端、好みにドンピシャの女性に出会うとは……

 これは詩音の呪いから解放されたと言っても過言ではないのでは?

 あとはヒノさん以外の好みの女性に出会った時、どういう感情を抱くかで、ヒノさんに対する想いというのがはっきりするかもしれない。

「君が問題娘の弟くんか?」

 そんなオレの気持ちを破壊するかのように、詩音の呪いが発動する。

 討伐協会から外に出て、朝の清々しい空気と新たな気持ちの中、これまでとは違った一歩を踏み出すぞ、という直前、元女神より若干背丈の高い(多分175センチぐらい)の、見た目は二十代中頃のお姉さんに声をかけれた。

 黒髪を正面から見て右側へサイドアップ、黒ニット、白スカートは膝よりだいぶ上、黒タイツ、黒ブーツにブルゾンを羽織り、肩にかけた少し大きめの無骨なツールバッグ。

 こう言うと失礼かもしれないが、今日のコーディネートには合ってない気がする。

 もしかするとオシャレよりも優先すべきものを入れるための、仕方なくの選択なのかもしれないが。

 そしてスタイルの良さは服の上からでもわかる……が、いい加減ヒノさんみたいなお姉さんでも妹系みたいなヒロインは出てこないものか?

 まぁヒロインはヒノさんが一人いればいいのだが。

 それにしても、自分の人生は自分が主人公。その主人公が出会う女性のお姉さん系の割がまぁ多いこと多いこと。

 はっきり言って、食傷気味である。

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