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癒しと平和を天秤にかける

 この世界に来たのはいつのころだっけ?

 と、随分と長い間この世界で苦労してきたかのような疲労感と眠気に襲われ、途中何度かまぶたが完全に落ちてしまうも、道端で寝てなるものか、と気合を入れつつ、何とか魔物討伐協会まで戻ってくることができた。

 先ほどの女性誘拐のこともあるので、この間、この時間、ふらふらの若造が悪そうなやつに絡まれなくて本当に良かった。

 本格的なバトルはもちろん、喧嘩なんて小学生の時に友人としたきり以来一度もなく(詩音へのささやかな反抗はあるが)いざ襲われたら何もできないぞ……

 この世界にいる限りは元女神の言う通り、経験を積まなければならないか……嫌だなぁ……

 そんな憂鬱とした気分、せめてヒノさんの姿を一目みることができれば癒されると思うんだが……先ほどの緊急連絡のためか、事務所内は忙しそうにしていた。

 ヒノさんは……席を外しているのか、姿が見えない。

 残念。

 仕方がない。寝床まではあと少し。

 がんばれ、オレ。

「お疲れ様です」

「ぉぁ……」

 階段を上ろうとしたところで後ろから声を掛けられ、振り返ればそこにはヒノさん。

 あぁ……やっぱり癒されるぅ……

「アイリさんからの緊急連絡だったので、もしかしたら、と思っていましたが、その様子だと一緒の現場にいたのですね?」

 ……はて? アイリ?

 ………………

 ……そういえば、元女神の初登場時『女神アイリ』とか嘘を名乗っていたような……

 ずっと悪魔だの元女神だのと自分の中では呼んでいたし、召喚時以降は自己紹介もなければお互いに名前を呼んでいない。

 もしかすると『この私を誰だと思っているの? 女神アイリよ。アイリ様と呼びなさい』と強要されるかもしれない。

 もちろん全力拒否だが、暴力には屈してしまうかもしれない……

「大丈夫でしたか? どこかお怪我はされていませんか?

 私でよければ応急処置ぐらいはできますけど」

 くぅ……擦り傷ぐらい作っておけばよかった……残念……

 あ、いや、そうじゃないな。 

 怪我をしていないことは幸運である。怪我をすることだけは詩音に、やんわりとだが、怒られていたからなぁ……

 詩音のいたずらでは怪我だけは不思議としなかったし。

「ご心配ありがとうございます。幸いなことに怪我はありません。

 ところで、事務所内の人が忙しそうですが、やっぱり今回の誘拐犯のことですか?」

「はい。今回は誘拐犯のアジトが特殊だったので、余罪があるのでは? と、現在警察や魔導隊と連携して情報を収集しているところです。

 もしかすると大きな犯罪組織のしっぽを掴めるかもしれませんし。

 なので、被害合われた方やアイリさん、そしてコウキさんは大変な思いをしたかもしれませんが、もし犯罪組織の壊滅につなげることができれば、コウキさんたちの大手柄ですよ。

 そうなると賠償金の減額も期待できるかもしれません」

 ん?

「賠償金、ですか? あいつからは借金と聞いていたのですが」

「え……あぁ、アイリさんが起こした被害賠償を協会が肩代わりしたので、借金とも言えますね。

 事情が事情なだけに全額請求は免除されましたが」

「……いったいな」

「あ、すいません! 私も仕事に戻らなければならないので……

 お疲れのところ呼び止めてしまって申し訳ありません。

 今夜はゆっくり休んでください。

 それではおやすみなさい」

「あ、はい……おやすみなさい……ヒノさんも無理して身体を壊さないようにしてください」

「お気遣いありがとうございます」

 ヒノさんは笑顔で一礼してくれて、オレもそれに応えて改めて宿直室へ戻る足を進める。

 ……三億が請求の一部って……あの元女神、何やらかしたんだ?

 肝心なところは聞けなかったが、忙しそうなヒノさんをこれ以上引き留めておくことはできない。

 まぁ全額支払いは免除される、ってことは犯罪を犯したとかギャンブルに負けたとか、そういうことではないのか。

 あいつの性格からして、ポイントを稼ごうとしたところ大失敗した、か?

 ……あり得そう……

 にしても、やっぱりヒノさんはいいよなぁ。話をしただけで癒される。

 これだけでも異世界に呼ばれた価値はある……が、ここに留まりたいか、というとそうでもない。

 詩音に虐げられていたとはいえ、事故や犯罪に巻き込まれなければ命の保証はされている。

 一方こっちの世界で元女神と一緒にいると、生死は紙一重。

 そう考えるとやっぱり早く元の世界に帰りたい。

 ……宝くじでも当たらないかなぁ……

 そんな淡い期待を抱きつつ、宿直室に戻った途端に緊張の糸がぷっつりと切れたのか、倒れるように横になるとノータイムで意識が途切れた。

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