元女神の交渉術
「……見透かされてるようで腹立つけど……まぁいいわ。
今回の召喚は気合いを入れたとはいえ勇者召喚の予行練習みたいなもので、勇者の素質を持つものは召喚されないよう、天界側で制御されてるのよ」
「……へぇ」
まぁ、オレもこんな能力が勇者の素質だとは微塵も思ってないから、勇者を否定されたところで腹が立つことはないどころか、むしろ納得してしまう。
ただ、召喚した相手に極限の不満はある。
「とはいえ、システムとしては共通しているから、召喚されたものが活躍する、あるいは私が女神っぽく導くとポイントが加算されるの。
今回の人助けの場合、私単独でもポイントは加算されるけど、そこへあなたを介入させて何かしらの功績を上げさせると、さらにポイントが上乗せされるの。
だから確かに戦力とは見ていないけど、例えば誘拐犯の衣服を破壊して少しでも隙を作ることができたところに、私の正義の制裁を食らわせることでポイントが貰えるわ。
とはいえ、あなたの異世界デビュー戦となるわけだから、上手くいくと期待はしてないわ。当たればラッキー程度の練習と思って気軽にやればいいのよ。
ただし、どさくさに紛れて私を狙おうものなら」
「わかった。言わなくてもわかるから」
そもそもこの元女神に対しては既に不本意な事故でセクハラ行為を行ってしまい、二度制裁されている。
あんな痛いのはもうごめんだ。しかも今回は運が悪ければ二階から落下という、命に係わる制裁。
こいつは感情で動きすぎている気がして……今後が不安で仕方がない。
「って、凄い長話になっちゃったけど、追わなくてもいいのか?」
「あ」
なぜこんな重要なことが抜け落ちてしまったのか。
オレが話を振ったことも原因なので、このまま誘拐された人が酷い目にあったと聞いた日には、とてつもなく目覚めが悪いだろうな……
せめて初手通報していれば、元女神が窓からダイブしなければ、と思わざるを得ない。
「……仕方ないわね」
元女神はため息を一つついて、何やら切り札を使う雰囲気を醸し出す。
もしかすると探索魔法とかか? でもそれは使用に躊躇うことのない魔法だと思うし、切り札ではない気もする。
そう思っていると、元女神はポケットからスマートフォンのようなものを取り出し、どこかへ電話……この世界で電話って表現は合っているのだろうか?
「あーおつおつ。ねぇ、誘拐犯の行方追えるでしょ?
え? いやいや、そんなこと言わないでさぁ。
だって今回は初回だもの。異世界デビューよ。長々と説明してたら思ったよりも時間経っちゃってさぁ。
え!? 報酬カット!?
いやいやいや……
あ、そういえばあんた、アレ、欲しいって言ってたでしょ?
そう、アレよアレ。
私、手に入れられるんだけどなぁ。そういうルートあるのよねぇ。
ひ、みぃ、つ。
ふんふん。おっけおっけ。
じゃ、また今度ね。
誘拐犯の行方がわかったわ。あっちよ」
と、会話を終えた元女神は、得意気に灯りの少ない小道の方を指さす。
というかこの会話。相手の弱みに付け込んだ交渉だったのでは?
これを心強いと思えれば、今後も上手い具合に立ち回れるんだろうけど……けど、不安しかない。




