『自称女神』の正体は……
いきなり目の前に現れて自称『女神』と言い放ったのは、腰まで伸びた赤い髪に赤い瞳、そして着用する衣服はゲームや漫画などで女性神官が着てそうなスカート短めの法衣も赤を基調としており、直視すると目が痛いレベルだ。
さらには『女神』を自称するだけあって、その美貌は思わずその言葉だけで信じてしまいそうになる……と、言いたいところだが、普段からこのレベルの詩音、しかもだらしない姿を見慣れているので、男としてこの女性に目を奪われ魅了される、という感情に至らないのが悲しき事実。
むしろ姉に汚染されすぎて、姉系が出てきたことにがっかりするレベルだ。
神様ならさぁ、もっとオレの好みの女神を……
などと言っている場合ではない。
家を出るとどことなく詩音に似た女性が痛いことを言っている。ぐらいなら詩音のいたずらで済むレベルだが、周囲を見渡せば明らかに自宅周辺ではないどころか、玄関から一歩踏み出したらまた室内、とかいう異常事態。
どこかの倉庫のようで、広さは自室と同じぐらい。壁には工事用のヘルメットがかかっており、その周囲にも工事で使うような道具がちゃんと整理されて置かれている。
そして窓から差し込む光を見るに、既に夜が明けていることも確認できる。
すなわち、ここから導き出される答えは、詩音が仕組んだ盛大なドッキリ、だということ。
突拍子もない出来事ではあるが、詩音はたまにとんでもないことをしでかす前科がいくつもある。例えば去年の文化祭など……と、思い出すだけでも頭が痛くなる。
そう考えると、先ほどまでのわけのわからないやり取りは、詩音が最近覚えた催眠術を試しており、実際は着替えて外に出ることはなく、その場で寝てしまい、この場所に運ばれてきた。
部屋の大きさ的に、もしかするとここは詩音の部屋を改造したと種明かしされても、詩音ならやりかねない、と納得してしまう。
そしてこの『女神』を自称する女性も詩音の友人であり、悪乗りに加担している、と。
赤髪の人など当然学校では見たことがないので、学校の友人が返送している。あるいは、詩音がアルバイトしている『お嬢様カフェ』とかいう、お嬢様に扮した女性がお茶を飲む、本を読む、ただそれだけを鑑賞するという喫茶店のバイト仲間なのかもしれない。
ちなみにこの変わったコンセプトの喫茶店、まさかの人気店で詩音はトップだと自称している。
なので冷やかしのために喫茶店を訪れたときは、家にいる時、というかオレに接する時と全く違う態度に笑いが耐え切れず、コーヒー噴き出してしまったことがある。
そういう店の友人なら、女神を自称できる友人がいてもおかしくはないし、類が友を呼んで詩音の悪だくみに協力した、ということも十分考えらえる。