仕事に対する姿勢
人生十七年。まだまだひよっこではあるが、初めて出会った多分年上だけど見た目は妹系な女性。
そんなヒノさんが作業している手元にあるのはキーボードではなく、黒い板状のもの。
モニターに視線を向けつつそこに手をかざしていることから、多分アレに魔力を送って動作させているのだろう。ということは、あれが元女神の言葉にもあった魔力を動力とした技術『魔術』なのだろう。
改めてはっきりと目にすると、やっぱり異世界なんだな、と、ようやくこの状況を徐々に受け入れられるようになってくる。
ヒノさんともっとお話ししたいと思うが、仕事の邪魔をしてはいけない。そう思って元女神について通り過ぎようと思っていたところ、元女神は軽く受付の窓を叩く。
すると夜間受付の部屋内にいる、男性三人女性二人が同時にこちらに顔を向け、その中からヒノさんが対応してくれた。
これは思わぬ幸運。
「宿直室のご利用ですか?」
「そ」
眠気からか、元女神は素っ気なく答える。
「わかりました」
それでもヒノさんは嫌な顔せず、引き出しの中から鍵を取り出し、元女神に手渡す。
「それと、夕方ごろに支部長から連絡がありまして『事情が事情なだけに特例で貸しているが、そろそろ別の宿泊先を見つけないと宿泊代を徴収する』とおっしゃっていましたが……」
その事情とはなんなのだろう? 元女神は眠いから答えてくれなかったが。
「わかってる。わかってるって。
そのためのコレ。明日からはちゃんと稼げるように頑張るから」
元女神はそう言いつつ、オレの肩に手を置く。
さっきまでオレの能力は役に立たない、とか言っていたのにどうやって稼ぐつもりなのか……
不安しかない。
「ならいいのですが……
弟さんも無理のないよう気を付けてくださいね」
「あ、はい……」
そういえば姉弟設定だったっけ……
不本意にもほどがある。せめて仲間というなら納得できなくもないのに、なぜ姉弟なのか……
もしかして家族の方が連帯者として設定しやすかったのか?
「あ、気を付けた方がいいわよ。
こいつ、変態能力者だから、いつ真っ裸にされるかわかったもんじゃないわよ」
「おい。誤解を生むような発言はやめろ」
能力は確かにその他の使い道が思い浮かばないが、それでもヒノさんの好感度を下げるような言動は許されない。
とはいえ、力づくでは絶対に勝てそうにないので、何かうまい弁明はないものか……
「はは……でも私はこのように貧相な身体なので、弟さんはきっと興味がないでしょうから大丈夫かと……」
ヒノさんの自虐……ここで何かフォローを入れられれば、好感度を上げるチャンスとなる。
「失礼ながら。
確かに身体は少々幼さを感じるところではありますが、仕事をしている姿は社会人として凛とした雰囲気を感じさせます。
そういう自分の責任をちゃんと果たせる人は、見た目関係なく素敵だと思います」
……これ上手いフォローか?
自分で言っといて、直後に恥ずかしくなる。
しかしこの元女神とは違い、自分の職務を全うしようとする雰囲気を感じる。
お嬢様カフェでも、特に詩音は表では上品ぶっているだけだが、料理を提供する厨房の人たちは真面目に、それこそお客さんに満足してもらえるよう努力をしていた。
裏側の事情を知るのも詩音にしてやられた結果ではあるが……
それでも真面目に仕事に取り組む姿はかっこいいと思ったものだ。
なお詩音のお嬢様カフェでの仕事は真面目ではなく、怠惰を極めた者、だと思っている。
つまり、詩音やこの元女神に比べれば、ヒノさんこそ女神。




