倒すべきラスボス?
「いや、今後の話をするなら宿で腰を据えて話した方がいいんじゃないか? まさか宿をとってなくて、野宿なんてことはないよな?」
一晩だけなら耐えられなくもないが、今後続くとなるとこの悪魔からは早々に逃げる段取りをしなければならない。いや、でもそれだと借金が……
「野宿も慣れればなんとかなるものだけど」
野宿経験のある悪魔……
「一応事情が事情なだから、期間限定ではあるけど、ここの休憩室を使わせてもらえるように話をつけてあるから。
ま、宿直のためのシャワーもあるし不便はないわ。ごはんは出ないけどね。あとはいかにしてゴネにゴネまくって長期間滞在するか、よ」
本来なら悪魔を批難するところだが、野宿のことを考えるとゴネ得に賛同しなければならないか……
「それから、さすがに二部屋は用意できないみたいだから同室になるけど、私に手を」
「いや、それはない」
手を出したら死、とか言いたいのかもしれないが、その前にキッパリ否定してやった。
「あんたって同性愛者?
まぁ人の恋愛観なんて自由だからそれを否定するつもりは一切ないわ。むしろ応援してあげるわよ」
「違う!」
恋愛事情が人それぞれなのはいいと思うが。
「正直言うと、お前が美人なのは認める。
けど、オレの姉に少し似てるんだよ。だから姉を連想させる女性には、昔からそういう気持ちにならないってだけ」
我ながら人生損している、とは思う。これも全て詩音の責任。
「美人拒否とか随分と贅沢な発言だと思うけど、私に似ているなんて、それはもはや世界レベルの美女でしょ」
「……自分でそこまで言える自信がどこからくるのか?」
詩音ですら自身を美人だと言ったことはない。お嬢様カフェで働いているのも容姿に自信があるわけではなく『楽だから』だそうだ。
「だって私、女神よ。当然も当然。否定する要素のない完全な事実だわ」
その性格を除けばな。と、話の腰を折らないために内心ツッコミ。
「でもそれなら少し安心したわ。
あんたの言ってることが本当かどうかはわからないけど、事実なら余計な警戒をして精神的な疲労を溜めなくてすむわ。
昔いたのよね。召喚されてどうせ異世界だから、っていきなり抱き着いてきたやつ。
死後の魂だったから首が回転するほど殴ったら、魂が浄化されちゃって計画中止。上司にムッチャ怒られたわよ。私が悪いんじゃないのに」
出会い方を間違えていたら、オレの首から上は無くなっていたのか……というか、女神の上司とは?
「その計画ってやつ、今回のオレもそうなのか? というか、これは本当の本当に現実なのか?」
まだギリッギリ夢疑惑を捨てていない。とはいえ、最後の悪あがきと思って聞いてみる。
「そこそこ長い時間過ごしてごはんまで食べたのに、まだ受け入れてないの?」
「そりゃ信じられないだろ。いきなり異世界なんて。
漫画のように超速理解からの適応なんて、絶対不可能だと思うんだが」
「そお? 割と多いわよ。超速理解の適応者」
「……本当かよ?」
どうしてもこの悪魔の言葉は信憑性が薄い。
「ええ。それこそあんたの言う漫画の影響だと思うわ。
まぁ各世界の文明の発達具合は担当女神によるから、全ての人がそうだというわけじゃないけど」
「あく……さっきも上司とか言ってたけど、女神ってそんなにいっぱいいるのか?」
危ない危ない。悪魔に悪魔と言っても悪いとは微塵も思わないが、それで機嫌を悪くして話が進まなくなっては困る。
「他の生命体に比べれば圧倒的に数は少ないけどね。
ちなみに、その強さは一騎当千どころじゃないわよ。上位女神、特に創世の三大女神長の一人『熾煌』様の力は、息を吹きかけるだけで全ての生命が『始まりの熾炎』へ帰ると言われているわ。
この法衣だって『熾煌』様に憧れて着ているのよ」
「ふーん」
得意気に『熾煌』様を語るが、現実離れもいいところで、まぁ凄い神様なんだろうな、ぐらいにしか思えない。
なんなら目の前の悪魔のことを考えると、実は悪の軍団で、その『熾煌』様は倒すべきラスボスなのかもしれない。




