英雄
「あのアイリをひん剥ける英雄!
オレは何も見ていない!」
「そうだ! 立証できなければ犯罪ではない!」
「いけいけ!」
応援してくれたのは、見た目が悪人ヅラで屈強、酒の影響かスキンヘッドのてっぺんまで真っ赤にした三人組の男性。
言っていることは、失礼ながら見たまんまの犯罪者の言な気もするけど……
「え? あの子がアイリに?」
「そうらしいぜ」
「すごい魔法使うとか?」
と、声を上げた三人組に反応するように、店内がざわつき始める。
どうやらこの悪魔の悪名は周知の事実らしく、その悪魔に一撃を食らわせてやったことが話題になっている模様。
というか、何をやったらこんな悪名が広がるのか……
「う……く……く……」
この状況には分が悪いと判断したのか、悪魔はテーブルに突っ伏し、何やらすすり泣く。
「……ひ、ひどぃ……私、この男に服を無理やり破られた被害者なのに……」
「ウソ泣きは通用しないぞー」
「あ、オレも騙されたことがある」
「オレもオレも」
それに対し、店内の男性陣から一斉にツッコミがはいる。
どれだけのことをすれば完全に信用を失うのか……
「ちっ! もういいわよ!
あんた! 今日のご飯は私の神聖な肌を見た拝観料としてこのハゲどもの奢りだから、好きなだけ食べなさいよ!」
悪魔は予想通りのウソ泣きで、自分の意見が一蹴されたことで再び身を起こし、大きく舌打ちをしてジョッキに残っていたビールを一気に飲み干す。
「おう英雄! アイリの言った通り、今夜は好きなだけ飲み食いしてくれ!」
「え……あ、はぁ……」
テンション絶好調のスキンヘッドの一人がいきなり肩を組んできた。
……酒臭い……いやそれよりも、詩音にはない見た目の怖さはあまり経験がないので、ヤクザ顔負けの見た目の人に絡まれると、正直ちびりそうになる。
「いや、オレはみせ」
「おかわり! おかわりよ!」
未成年を主張しようとしたところで、悪魔がその声をかき消すほどの大郷で、おかわりを所望する。
と同時にオレに向けられた眼光は『絶対に余計なことはしゃべるな』という、強烈な意思を感じさせる。
これは詩音とは違って、あからさまな殺気……
詩音の場合は雰囲気で殺そうとしてくるので、表情からは読み取れない。
「……いやぁ実はオレ、酒を飲むと酷い頭痛と眩暈に襲われる体質でして……えーと……」
言いつつサッと周囲を見渡し、周囲にごまかせるものがないか探す。するとオレンジ色の液体が見えたので、
「オレンジジュースをお願いします」
そう注文しつつ悪魔の視線を確認すると、特に問題はなさそうなので、この世界にもオレンジは存在するようだ。
「それは仕方ねえなぁ。
よっしゃ。なら食いもんだ。好きなだけ食え」
「あ、ありがとうございます……」
もう悪魔を問い詰める雰囲気ではなくなってきた。
それに未成年がNGワードということは、ここでの悪魔との問答は悪魔にとって都合の悪いことなのだろう。
まぁ別にそんなことは知ったことではないのだが、それとは別に自宅の玄関を出てからだいぶ時間が経っているので、この居酒屋に入る前から漂う食欲をそそる香りに空腹が最高潮に達していた。
なのでまずはありがたく食事を奢ってもらうことにする。
それに明日の食事は保証されていない。
最悪、最後の晩餐になりかねないのだ。ここはじっくりと堪能させてもらう。
「ところで、なぜオレが英雄なんですか?」
まだ魔王討伐どころか魔物一匹も討伐していない。そもそも魔物も一匹たりとも見ていない。
「そらもう、普通じゃないこの嬢ちゃんの服をバッサリ切り裂いたことよ!
あんだけ無茶苦茶なことやっても傷つくことがなかったのに、だぜ?
まぁにいちゃんは反撃食らって伸びちゃったみたいだけど、ダメージ与えただけで凄いってもんよ!
オレたちは偶然あそこにいて、大きな音がしたから見に行ってみたら、いろんな意味で凄いものが見れたってわけよ!」
「あんなのはまぐれよ! まぐれ! ノーカンノーカン! それにあの恥辱! 思い出すだけで腹が立つっての! おかわりよ! おかわり!」
声でっか……
自分で『回避不能』魔法を授けておいて、なにがまぐれか。むしろ完全成功だろう。
まぁ使い道があるかと聞かれると……
不安だ……このさき不安でしかない……




