一矢報いる
今はただただ、その腹立つ笑顔の中央に思い切り拳をぶち込んでやりたい、という憎悪しかない。
あ、いや待てよ……
「そもそも、連帯保証人ってオレの許可なしに無断でできるものなのか? 書類とか偽造したってことだよな?
それなら無効なんじゃないのか?」
はっきり言って、高校生のオレには連帯保証人がどのようなものなのか詳しいことはわからない。ただなんとなく、お金を払うんだな、というぐらいのイメージしかない。
「ふっふっふ。いいところに気づいたわね。
と、言いたいところだけど、女神パワーを使えば書類の偽造なんて余裕も余裕で、人間である限り見抜くことなど不可能よ。
しかも天界からの許可も得ている私に隙はないわ」
なんというドクズ集団なのだろうか……あ、女神ってやっぱり自称で、そういう頭のおかしい集団のことか……
夢なら早く覚めてほしいけど、やっぱりこれは現実なんだ、と受け入れかけている自分もいる。
それに思い切りぶん殴って憂さ晴らしをしたいところだけど、先ほどの鷲掴みから思うに、間違いなく単純な力じゃ勝てない。
逃げたいけど逃げる場所もない。
これが詰みというやつか……
いや、やれることが一つあった。
詩音に一矢報いたあの日。
珍しく目を丸くした詩音。
爽快だった。
先ほど女神がオレに力を与えたことは間違いないようで、なんとなく使える気がする。これが異世界特典というやつか。しかも『回避不能』らしい。
集中集中。
「ん? 何する気?」
女神、もとい女神を自称する悪魔は、オレがかざす手に焦ることはなく、相変わらず笑みを浮かべている。
「オレを元の場所に帰せ」
「脅しているつもりかもしれないけど無駄無駄。
所詮人間ごときが使用する神聖術……いえ、この世界では魔法って言うんだったわね。そんなものが私に通用するわけないでしょ。
そもそも、誰がその魔法を授けたと思ってるのよ。私よ私。効くわけないわ。
それに、女神に召喚された『選ばれし者』は女神の目的が達成されるまで元の世界に帰ることはできないわ。
でも安心しなさい。絶対に死ぬようなことはないと誓うわ。
これも嘘偽りなく、本当の話。
私の今後がかかているのよ。絶対にミスはできないわ」
悪魔は、やってみろ、と言わんばかりに両腕を広げて、防御をするつもりはないようだ。
そして随分と利己的な発言。これはもう敵と認識して問題ないよな。
「ブレイク!」
脳裏に浮かんだ魔法の使用方法。これ以外はさっぱりだが、逆にこれだけは使えると自信が持てる。
そして気合を込めて放った一撃は……手から何かでるわけでもなく、一瞬の静寂に包まれる。
……もしかすると詩音はここまで計算していた?
とか考えると、恥ずかしさに耐えきれず、今すぐ窓をぶち破って逃げ出したい気分だ。
そう思った矢先、悪魔の毛先がフワッと揺れる。
「ほら、通用しない。ただ気持ちいいそよ風が吹き抜けただけ……そよ、かぜ?」
余裕ぶっこいていた悪魔の顔が少し険しくなる。
窓は開いていない。
「……なにすんのよ!」
次の瞬間、悪魔は散々挑発してきたにもかかわらず魔法を受けたことに激高し、強烈なデコピンをオレの眉間に直撃させると同時に、オレの体はまるで重力を失ったかのように宙を舞い、ドアをぶち破って会議室から飛び出る。
そして、はらりと落ちる悪魔の衣服を確認しつつ、意識が遠のいていく。
……一矢報いてやったぜ……




