第4コロニー11M小隊(4)
点々と、道のところどころに黒いシミがある。ジェイコブがいた村に近づくほどにソレは増えていった。
ネズミだ。漆黒の体毛、爛々と灯る赤の瞳。ネズミの死骸だ。
「……なんだ?これ、ネズミの親玉でもいるのか?」
カートが呟くが、誰も答えない。明らかに異様な光景だった。死骸とはいえ、下層に配属されてからこんなに大量の生き物が集まっているところは見たことがない。
『……ん……ろり………おこ……よ』
「何か……聞こえる?」
ゆらり。村には人影が見える。黒い。それこそ散らばるネズミが集まったかのような姿だ。
と、突然胸に衝撃が走る。数瞬遅れて隊長に突き飛ばされたのだと知る。
ネズミ?隊員たちは足元から這い上がってくる泥のような何かに飲まれていく。そして皮膚が爛れ落ちていく。
「トール!逃げろ!あく……」
隊長のその言葉を最後に皆黒に飲まれていく。
悪魔。
トールは必死で走った。悪魔だ。昨日、自分が悪魔だと思ったことが馬鹿らしい。あれは何もない。
飲み込まれたら何もなくなる。
機械の足が地面を踏む音がする。
走って。走って。走って。
足音が聞こえなくなった頃。
トールは黒に飲まれたことを知った。
『ねーんねーん、ころーりーよ。おこーろーりーよ。ぼーうやは、良い子だ。ねんねーしなー。』
重い足音のかわりに聞こえてきたのはあたたかな子守唄だった。
真っ暗な闇の中、あんなに重かった体がふわふわ浮くような気持ちだ。
久しぶりの感覚だった。
いつからだろう。殺した人間のうめき声が頭の中で反響して眠れなくなったのは。暗闇が血の色に見えて眠れなくなったのは。母さんの子守唄を思い出せなくなって眠れなくなったのは。
暗い。意識が霧散していく。
眠い、な。心地よい闇に呑まれ、トールは目を閉じた。