第4コロニーM11小隊(2)
朝、周囲はほのかに明るくなるがまだ雨は止まない。黒い、雨。
「ダメです、M09小隊、応答しません。」
無線通信機のヘッドホンを外しながらカートが報告する。カートは左腕が機械で、詳しくはわからないが、かなり高性能な通信機器を内臓しているらしい。
全員の顔色を伺う。ジョンとアシュは寝起きだからかいつもより反応が遅く感じる。ジョンは、左頬、アシュは両腕が機械化されている。
ケリーは顔色が悪い。震えているのか微かに歯の音がする。
報告を受け、何かを考えたような素振りを見せた隊長は少し間を開けて口を開く。
「そうか、…………皆の意見を聞きたい。第8コロニーの奴らだと思うか?今まで雨の日に奴らが攻めてきたことはないし、俺たちが攻めたこともない。」
そう、これは、ゲーム。暗黙のルールがある。そのひとつに『雨の日は戦わない』がある。
「あ……、悪魔だ!悪魔がきたんだ!」
ケリーが振り絞るような声を出す。子供の頃誰もが聞いた単語だ。
『トール、音が聞こえる?この音が聞こえる日は外に出てはいけないの。悪魔になってしまうからね。あぁ、神よ、この子を守りたまえ。』
ジェイコブの死に際を思い出す。機械部分以外の特に肌がただれ落ち、いつか見た人体の模型みたいになっていた。撃たれたあとはひとつもなかった。
「あ、あく、あ、あああああ!あ………」
ケリーが明らかに錯乱したのを見てとったのかアシュが鎮静弾を撃って大人しくさせる。
わずかばかりの沈黙が落ちる。最初に口を開いたのは隊長だった。
「……悪魔に心当たりは?」
「……ある、出所は不明だが。噂になっている暗い雨の夜悪魔がやってくる。悪魔に魅入られた隊は肌が腐り落ちて死ぬ。そんな話だ。」
カートが答える。トールは自分も子供の頃聞いた話をしようかと思ったがなんとなくやめた。
「……具体性のかけらもない話だな。悪魔……か。」
隊長は一度何かを口にしかけたが、やめ、それとは別に話を続ける。
「……ただの感だが第8コロニーの奴らじゃない気がするんだ。今まで雨の日に戦闘があったなどと言う話は聞いたことがない。何か、イレギュラーがあったんだ。盤上の駒にすぎない俺たちに、盤外から差し込まれた手がある。そして、上からは何も言ってこない。」
「……」
全員が息を呑む。次に続く言葉は明白だった。
「つまり、俺たちはM09小隊に何があったか確かめなければならない。異論があるやつはいるか。」
怖い、などという感情が脳裏をかすめるが言えるはずもない。M11小隊は雨がやみ次第M09小隊に何があったのか確認しに行くことになった。