第4コロニー11M小隊
雨。ひどく暗い夜だ。
6人で寝るテントの中。雨がまばらに当たる音がする。
身体が軋む。疲れているとかの比喩ではなく、身体が軋んでいるのだ。
右腕、そして左足、右足の膝から下。機械化した部位から音がする。痛みを感じない部位のはずなのに痛い気がする。幻痛。
「寝れないか、トール」
隊員の寝息を縫うように小隊長の静かな声が聞こえる。
「はい、痛いんです、腕が、足が。」
ギシ……微かに動かした身体から音が漏れる。
「おかしいですよね。こんな身体なのに。痛覚なんて取り除いたはずなのに。」
「…………目だけでも瞑っておけ。雨が上がればまた戦うことになる。」
「隊長、でも俺たちは……。」
「トール。」
「…………。」
目を瞑る。隊長も眠れないのだろうか。隊長は既に四肢、内臓の一部、頭の半分が機械だ。隊長も痛むのだろうか。
雨の音が強まってきた。このまま雨がやまなければ戦わなくてもいいのだろうか。
こんな世界になっても人は争うことをやめない。より良い生活を求めて殺し合う。
だが、殺し合うのは一部だけだ。そう、俺たちのようなーーーー。
ふと、雨の切れ目に音が聞こえた気がした。
「……隊長。」
「聞き間違いじゃ、なさそうか。皆、起きろ。」
隊長の声のあと僅か数秒で隊員たちは戦闘の準備を整える。
「客、ですかい?雨の日だぞ、正気か?」
「なりふり構わなくなったか第8コロニーの奴ら。」
足音。今度は間違いない。明確にこのテントを目掛けて進んできている。
一歩、一歩。
いや、しかしこれは。千鳥足?酔っている?
「あけるぞ、ジェイコブの足音だ。だが……警戒は怠るな。」
隊長は素早くテントを開ける。
そこには、血まみれのジェイコブが立っていた。一目で助からないと判断する。雨で皮膚がただれ落ち始めているが、血まみれの原因ではない。
グシャっと溶けるようにジェイコブが崩れ落ちる。
「おい、ジェイコブ、何があった。お前はそれを伝えるためだけにここにきたんだろ。」
「ジェイコブのテントはN.45365E.22669です。」
「東の村か……おい、ジェイコブ!」
かろうじてジェイコブは口を開けることに成功する。
「ひゅー、あ……ひぐっ、あか、ひゅー、あく……」
死戦呼吸……。
ジェイコブがなんとしてでも伝えたかったこと……あく……とは?
突然のことに隊員は口をつぐむ。
にわかに雨がまた降ってくる。
パラパラとテントを叩く音、ジェイコブがしゃくり上げる音。
……雨の日に外に出ると……。遠い子供の頃親から教えられた言葉を思い出す。
……悪魔?