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いつも読んでいただきありがとうございます。土曜日に投稿できるのか不明なので次回は5/10(金)投稿予定とさせていただきます。ご了承ください。
私が吐露したことは杞憂だった。
あの少年にあってから特に何事も起こらず普段の生活を私は送っていた。
ただ、困った事に今度はそれに頭を抱える状況に陥る。それは私の机に保管した、とある落とし物の事だ。
貴族であろう彼が居なくなった後、ふと彼の座っていた場所に精巧につくられた腕輪が落ちていた。
硝子のような透明の物で出来ているその代物は如何にも高そうなものでティティルリアはぎょっとした。
こんな高そうなものこのままにしておくとか無理だし、でも何か問題が起きるのは避けたいから正直預かりたくない。
ティティルリアはそのままどうするのか押し問答しつつ少年を待つ事にした、少年が気づいて引き返すことを期待したからだ。
持ってきた本を読まずただジッと暗くなるギリギリまでその場所で待ってはみたが、結局少年が現れることはなく、そのまま帰ったのだ。
このまま持つのも嫌なので翌日から暇を見つけては丘へ行き待ってはみたが、腕輪を見つけ拾って早20日経つ今でもあれから少年が現れることはなかった。
もしかしたら入れ違いがあったかもしれないが、何せ私は平民の娘。お手伝いをこなすいい子なのである。
貴族の人間が来られる避暑の時期も過ぎ去ったので、少年も王都へ帰ったのかもしれない・・・・・・。
取り敢えずこんな、如何にも売れば金になる代物を自分以外に見せたら欲に目をくらんだ人が現れるかもしれない。危機を感じた私は両親から誕生日に貰った鍵付きの小物入れにいれ鍵を閉めると、自分の魔力に反応して開錠出来るように鍵と錠に細工を施して小物入れは机の引き出しの奥にしまい、鍵はちょっとやそっとでは切れない魔力の込めた紐に通して、肌身離さず首に下げ持つことにした。
小心者の私は内心誰かにバレないかとドキドキしていたが、そんなこともなく・・・・・。
夏が過ぎ秋が訪れ、それから冬になり春になり・・・そして季節は夏を迎えた。
「11歳になりましたー。まだ私の運命の人は現れませんでしたー。・・・・はぁ。」
自分のベッドでゴロゴロしがら覇気のない声で誰に言うでもなくそう言うと、ジワリと涙が滲んできた。
少し前に私は11歳の誕生日を迎え両親に盛大に祝ってもらった。
子どもだと出来ることは限られるし早く大人にはなりたいと思ってはいたが、自分の理想には程遠い11歳を迎えてしまった。
こんなに幅広く頑張っているのに、もしかして私には運命の人はいないかも・・・・・・・。
今年になれば来年になればは並々ならぬ期待を胸に抱いて日々を過ごしていた私にとって、年を重ねていく毎に不安になっていた。もし自分が言った事が事実だとしたら?
自分の運命の人と楽しく日々を過ごすという夢がなくなってしまう。
それはとても自分にとっては受け入れがたいことで、あんなに忙しく走り回っていた日々を過ごしていた私が突如死んだ魚のようにピクリと動かないだらしない生活をここ数日続けていた。
両親もここ最近の私の様子に心配しているし、いい加減立ち直っていかないといけないとは思っているのだが、どうしても気力が湧かないのだ。
「なんか痛い・・・・。」
と、うつ伏せしていたせいか何か固い物が胸のあたりに当たって鈍い痛みが起こる。
なんだろうと思って起き上がって胸のあたりを探っていると、例の鍵が現れた。
「そういえば、これのせいで、お父さんと一緒に行ってた遠出に行くのも辞めたんだよねぇ。」
我が家の主な生業は質の良い材質を商人に売り込んで生計を立てている。
森でとれた質の良い薬草や父が狩ってきた魔物や獣の素材、たまに母が時々手塩にかけて作った布製品や果物の加工品などを一緒に荷車に詰め込み、村から大人の足で1時間ほどかかる場所にあるここより大分発展した港町アクアラインに8日に一度持ち込んでは贔屓にしている商人達に買い取ってもらっいた。子供には少々危険な場所もあるので初めはなかなか首を縦に振ってくれない父にこれでもかというほど頼み込んで連れて行ってもらっていた。
大きな港町なだけに交易の盛んな街なので海から遠方からやってくる人々でごった返して賑わい、色々なものが所狭しと並ぶ市場も雰囲気も活気も見ているだけでもわくわくしたものだ。
毎回ついていったのは様々な国の情勢や経済のことも商人の口からいろいろ学ぶ事が出来たからといのもあるし、なにより多くの人が来るのだからそこで運命の人にあえるかもしれないという自分の欲もあったからだ。
初めはそう思って黙々と通っていたのだが、ここに住む同年代の子供達と接しているうちにその考えは変わっていった。村の子供に遠巻きにされていたせいか彼らに気さくに話しかけてくれるのが嬉しかったのだ。
商売に関してはあの子達の方が先輩で色々教えてくれたり物静かに見ていても怪訝な顔をせず、そんな私を連れて色々遊んでくれたのが楽しかったのだ。
だがある時、鍵の存在をその中のうちの一人に言われ、心配になった私はそれ以降町に行こうとまでは思えず薬草採取だけ手伝う毎日を過ごした。気が付けばもう半年程行っていなかった。
あの頃が懐かしいなぁと思いながらその鍵を手に取る。
もう既に体の一部になっていたこの鍵をそれこそ最初はただぼんやりと見ていただけだったのだが、ぽつりと言葉が浮かんできた。
唯一人との交流ができるあの町にもし何時ものようについていったら運命の人に出会えたのでないだろうか。
―――――――鍵がなくすわけにはいけなかったから、だってあんな高価な物をしまっている鍵を手放せなかったから。
仲が良かった彼らに会えれば自分だってきっと楽しい時間だって持てたに違いないのに。
―――――――鍵を、なくして持ち主が困ると思って我慢していたから。
それが出来なかったのはこれを落とした人のせいではないだろうか。
―――――――鍵をもって時間を割いて待っていたのに、持ち主はあらわれなかったけど・・・・でもいつかくると思っていたから。
なんで律義にこれを守っていたんだろう、自分の大切なものでもないのに。
―――――――それは・・・・・。
これがなかったら今こんなにも落ち込んでいないのではないだろうか。
―――――――・・・・・・・・・。
それこそ自分が望んでいた未来が手に入っていたのかもしれない、ここまで必死に色々なことを覚えてきたいうのに、それさえも無駄にしてしまったのではないか・・・・・・?
もし、だったら、なんてある可能性だった過去のこと想像しただけなのに、この時のティティルリアは違った。普段の彼女なら冷静にそんなことはないと思い至るのにこの時はこの腕輪のせいだと自問自答うちにだんだん怒りを露わにした。死んだ目が徐々にいつもの光を取り戻したころ、彼女の怒りはピークとなった。
机の引き出しをあけ例の腕輪が入った小物入れを乱暴につかむとそのまま部屋を飛び出し、家を飛び出した。
彼女が走って向かった場所は腕輪が落ちていた場所だった。荒い息を吐き、その場に座り込むとその小物を腰が掛けられる大きな石の上に置いた。
「こんなもの見つけなければよかった。」
ぽつりと漏らしてギッと親の仇を見るような目で小物入れを見る。
1年も落とし主に会えなかったんだ、こんなもの壊して粉々にしてここに埋めてやる!
自分の不幸にした物なんか大事にしたって意味ない!
他人の事なんか知るもんか!
そう思って怒りで震える手で鍵を差し込もうとしたがそうなる前に鍵を持った手を地面に力なく下げ、彼女は未だ荒く肩で息をしてそして項垂れた。
項垂れたまま右手にある鍵を握りしめ、胸が苦しくなり左手で胸を抑えた。
「そんなことしたって・・・・今の状況が変わるわけじゃないっ。」
分かっているのだ、このせいだなんてことないという事は。
これを壊して1年前に戻れるわけでもないし、ましてや自分が夢見る運命の相手が降って湧いてくる事もないということもありえないのだ。
ただ自分の勝手な怒りで他人の物を壊すなんて、そんな事したくない。
だが一度高ぶった気持ちがどうなるわけでもなく、様々な感情がぐちゃぐちゃになっていてどうしたらいいのかわからなくなったティティルリアの目には大きな涙が勢いよくこぼれる。ぼたぼたと落ちる涙とこらえきれない嗚咽を漏らして、暫くその場で泣いていた。
泣いて泣いて1時間ほど経っただろうか、ようやく泣きおえた彼女がしゃくり上げながら目を擦っていると、がさっと大きな音が後ろから聞こえ、びくっと大きな耳と体を揺らして顔を上げ後ろを見た。
風もないこんな日に急に音が鳴るのは獣が潜んでいることもある、咄嗟に後ずさり父に教わった間合いを取るとティティルリアは即座に辺りを見渡す。
音がしたのは自分の場所からそう遠くない場所で森の入り口付近であの辺りは湧水が沸いているので小さな湖が出来ている場所だ。
結構大きな音だったからかなりの大きな獣かもしれない。
注意してその方向を見ていたが、一向に姿を見せる気配はなくティティルリアは構えをとったままその場へ留まった。ここら辺りが結界魔法で護られているとはいえ、危険だしすぐに逃げるべきである。
だが近くには民家もあるし下手なことをして村へ降りてきても困る、父も今は町へ向かっているからすぐに来てくれないし、他の手練れの人に運よく出くわすか分からない。
確認もせずに大人を呼びに行っても何がいるのかわからなければ対策にはならない。
考え抜いてティティルリア覚悟を決めて一歩踏み出した。
こんななりでもすでに中級上級魔法を習得しているものもあるし、父から剣術と護身術も最近学んでいるし一緒に狩りへ出かけているから気を付けることも少しは身についている。
一歩一歩進んで慎重に向こうに気が付かれないように進んでいく。
ティティルリアの涙はいつも間にか引っ込んでいた。
いつも読んでいただきありがとうございます。