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いつも読んでいただきありがとうございます。次回は1/18(土)投稿予定です。
大きく響き渡った音の正体を辿ると、そこには剣を鞘に納めたまま地面に叩きつけているバキの姿があった。
バキの扱う剣が大剣の事も重なり、思いの外大きな音が生まれたのだろう。
つんざく音がなくなり辺りが静寂に包まれた後、ハッと我に返った男の騎士1人がバキに詰め寄る。
「バッ!バキ隊長!何をするんです?!大きな音を出せば魔物がこちらに気づく可能性が出るでしょう?!」
「うっせぇなぁ・・・。」
食ってかかる騎士に言われ不機嫌に呟いた後、面倒臭そうな顔をしてバキは大剣を右肩に乗せ大股で今度はティティルリアの前で止まり見下ろす。
大柄な彼と子供体型のティティルリアとは随分体格に差があるが、彼女は怯むことはなく見上げて真っ直ぐバキの顔を見る。
「せっかく順調に行ってたてぇのにここで野営しろってのかよ?」
彼はじっとこちらを見下ろし質問する、彼の目を見たままティティルリアは頷いた。
「はい、規模が小さければ良いですが大きな規模の森の嵐は風だけじゃありません。」
そう言って、先程まで彼女が見ていた葉が不自然にくるりと丸まっている植物を指差す。
「植物があのように葉を丸め始めるのは、自分達を傷つけるカマイタチの風が来ると予期しているからです。森の風で起こるカマイタチは自然にできた魔力の大きな塊、災害そのものです。早く結界魔法を作り脅威に備えないと、下手すれば最悪死人が出ます。」
「なるほどなぁ・・・。」
トントンとまるで軽い棒で叩いているかのように、バキは剣で肩を叩きながらティティルリアの話しを聞いていたが、くるりと踵を返し後ろにいる部下達を見やる。
「おい、さっさと野営の準備をしろ。」
「え!し、しかし!」
まだ口答えをする騎士にバキは不機嫌そうに盛大なため息を吐く。
「聞いてなかったのかよ?お前馬鹿か?死ぬかもしれねぇモンがこっちに来るって言ってんだからさっさと準備しろよ。」
「でも、ここは魔物出現が多い場所だと「どこに魔物がいんだよ?」」
言葉を被せて質問するバキに騎士は周りを見た。
先ほど大きな音を出したにも関わらず、魔物の姿が見られない。
寧ろ不気味なほどの静けさに、ティティルリアの言っていた事に呆れた目で見ていた周りの騎士達も流石におかしい事に気がつく。
「おい、サディア。俺は死にたくねぇけど、どうするよ?」
「当然ここで野営だ。」
迷いなくキッパリと言い切ったサディアに、ティティルリアは内心ホッとする。
「私は専門である彼女の知識は必要不可欠だと思い今回同行してもらっている。今後は彼女の言葉は私の言葉だと思え。」
続けていった言葉にティティルリアは思わず驚いてサディアを見る。
一点の曇りもない目のままでサディアは部下に言い切っていた。
自分の発言は今後、隊長クラスの彼と同じ発言。それはここの中で彼らより上官の意味を持つ。
一瞬誰もが彼の発言に驚いたものの騎士の礼をする。
「へぇ・・・そうすんのかよ。」
口笛を吹いて楽しげにバキが呟くがティティルリアの耳には入らない。
一体、彼はどういうつもりなんだ?
「分かったらさっさと行動しろ。時間がない。」
サディアの声に一斉に騎士は動き出す。彼は暫く彼らの行動を見ていたがティティルリアの方を見る。
「ティティルリア。」
「はっ、はい!」
名前を突然呼ばれなんとか返事をする。
「悪いが野営の場所をどうするか考えてくれるか?嵐の方角は特定できるか?」
「えっ・・・うん、出来る。」
思わずタメ語を使ったがサディアはゆるりと笑った。
「そうか、頼んだ。」
サディアは結界を作る騎士を集め始める。呆然と見ていたティティルリアだったが言われたことを思い出し自分も作業を始めた。
「・・・何あれ、ムカつく。」
ティティルリアとサディアのやり取りを聞いていた女騎士がポツリと憎たらしげに漏らしたのをバキが静かに見つめていた。
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