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いつも読んでいただきありがとうございます。次回は4/20(土)投稿予定です。
「・・・あ!キタキタ!遅いってティル!」
「ごめんごめん、ギルドの受付が混んでいたんだよ。」
食堂兼呑み屋を営む『宿木』の扉を叩くと、カウンターに座っている緑色の長髪の女、タルネに声をかけられる。
因みに彼女はアカデミー時代の親友である。
軽く手を挙げ再度詫びながら彼女の隣に座った。
「遅かったから料理は頼んでおいたよ。」
「ありがとうタルネ。あ、お姉さん。悪いけどエールジョッキ2つ。キンキンに冷えたやつで。」
「え?」
「あぁ、酒出してもその子は大丈夫だ!」
厨房の奥から野太い声が聞こえ、ウェイトレスの女性は戸惑いを残しつつも注文を確認すると厨房の中へ引っ込んでいった。
「ティルあの子新しい子?。」
「そうだね、私も最近来てなかったけど初めて見る子だし。前に1人辞めたから店主募集かけないといけないってってたし。」
思い出すように言う口ぶりにタルネは気だるげな声で相槌をしていると、料理が運ばれてくる。勿論エール2つもだ。
「大将、久しぶり。」
「あぁ、1ヶ月ぶりだな、元気してたか?今度はどこ行ってた?」
「魔人領。良い素材を手に入れたし・・・そうそう、これお土産。」
そう言って空間収納から取り出したのは大きな大瓶でラベルにはゴツい龍の絵が描かれていた。
「おぉ!こいつは魔神領で有名な銘酒『龍殺し』じゃねぇか!」
「んふふー、良い物買えて良かったよ。この前エールの新作呑ましてくれたお礼。」
「ありがとうな、早速今日の夜にでも楽しませてもらうわ。1品サービスしとくからよ。」
ウキウキして奥へ戻っていった店主を見送るティルにタルネは呆れた顔をする。
「店主はともかく、本当に貴女呑兵衛ねぇ。」
互いにジョッキを持ちグラスを合わせて豪快に呑んだティルはタルネにニヤリと笑う。
「自分の唯一の楽しみは良いものを作るための調合、採取、そして温泉に酒よ。」
「どこが唯一よ!いっぱい有るじゃん。」
「あはは〜、んーまぁ、充実してるって事だよねぇそれだけさ。」
「まぁ・・・仕事充実してお金もあって好きな事をしてるってことは良い事なんだろうけどねぇ。」
そう言って串焼きを頬張り美味しそうな顔ををする。
ここの料理はどれも絶品なので仕方ない。
「ん〜〜・・・流石、かの有名なルーザッファ公爵お抱えだった料理人の家のお店ね!」
「色んなお店でアレンジ料理食べるけど、やっぱり本家本元の味はやっぱり違うよねぇ。」
「やっぱりあれだけのレシピを開発した偉人のお店よね。一子相伝って感じ!もうこれはエールが進むわー。」
2人して絶賛しつつ呑んでいたが、思い出したように口を開く。
「そういえば、今日はどうしたの?王都で騎士配属されて忙しくてなかなか会えなかったのに、急に会いたいだなんて。」
通信魔法でやりとりはしていたが実はタルネに会ってこうして一緒に食事するのは実に半年年ぶりだ。
なかなかスケジュールが合わずこっちから合わせないと会えないほど忙しい彼女が自分の予定に合わせて会いにくるのはひどく珍しかった。
「そうそう、実はね私王都からここに配属が決まったのよ。」
「はぁ?!ここも確かに都市部だけど田舎だよ?何左遷されたの??」
王都に配属される騎士はいわゆるエリートで彼女も給金が良いからって喜んでいたはずなのに。
急なことに口をあんぐり開けているとタルネは手を横に振る。
「あ、違う違う。確かに王都じゃなくなったけど自分からこっちに志願したの。」
「え?なんで??」
「あー・・・まぁそれはまぁね。」
なんか歯切れ悪いな?なんだ?
「まぁ、一番はお給金が良かったからだし最近剣をふるえてないから魔物討伐とかするって聞いているからそれならって思ってさ。まぁ異動の話しはこんな感じ。それよりさ、ティルはどうなの?最近良い人とか出来てないの?」
「げ。また会うたびにその話しぃ〜。」
毎回言われる恋人いないかという話題に嫌そうな目をしてティルは彼女を軽く睨むが彼女はどこ吹く風でこちらを見つめている。
怯む事のないそんな彼女にブスッとしながら肉料理を一口食べる。
「・・・そんな人いないし。何より私の見た目が変わっていないのが証拠だよ。」
「ティル・・・。」
「別にいらないし、今は仕事に充実しているし独りは別にいいし何よりこの姿だと楽だし。」
毎回聞かれた後思い出す。
あの苦い自分の11歳の出来事を思い出しながら、ティルはエールを呑み干しその苦味を感じていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。