プロローグ:そして、閃光の中へ
火雷 水木──19歳。
通信系最大手、**JCN**に所属する若き天才研究員。
彼の名は、すでに世界の科学界で広く知られていた。
15歳で飛び級でオックスフォード大学を卒業し、その後は素粒子コンピューターの第一人者として、次々と新理論を確立。若くして学術誌の表紙を飾り、“未来を変える少年”とまで呼ばれた。
JCNは、次世代AI開発競争を勝ち抜くために、彼を破格の待遇で招き入れたのだった。
だが、彼の非凡さは学術的な才能だけではなかった。
生まれは、古くから続く火雷神社の家系。
ミズキはその24代目当主の三男坊として生を受けた。
上の兄たちとは違い、幼い頃から不思議な感覚を持っていた。
母曰く、「目に見えない“なにか”といつも話していた」という。
祖父に至っては、こう語っていた。
> 「あれは、もののけ達が皆でミズキに、世の中の理を教えていたんじゃ……」
霊感が強く、直感が鋭く、人の心の機微をよく読み取る少年だった。
そしてその“感覚”は、後の研究にも活かされ、彼の理論には常に“論理では説明しきれない直観的飛躍”があった。
彼は、生まれながらにして、“この世界のルール”を超えたものと接してきたのだ。
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ある日の午後、会議を終えると、同僚(と言っても年上だが)の**花園 花蓮**が後ろから話しかけてきた。
「今日は、お疲れ様♪」
「会議で議題になった、高速より速いとされるタキオン素粒子を用いたコンピューターですが、ライバル会社でも開発が進んでいるらしいですよ! あとは、時間との勝負ですね!」
その話に、ミズキは、肩をすくめながら応じた。
「起動実験は既に成功しているので、あとは時間の問題さ。もっとも、あっちがタキオンコアの開発に成功してれば別だけどね。……それこそ、時間を未来に巻き進めない限り無理な話さ。」
そう言って振り向いた瞬間、花蓮の右手が空を切った。
次の瞬間、ミズキの首筋にチクリとした刺激が走った。
──視界がぐにゃりと歪み、そこで記憶が途切れた。
ミズキは、薄暗い部屋で目を覚ました。
周囲には見覚えのある機材……だが、どこか違う。
目の前には、彼が過去に設計したタキオン素粒子コンピューターが鎮座している。だが、それは何かが決定的に異なっていた。
「見覚えはあるけど……これは……」
その疑問に答えたのは、花蓮だった。
「目が覚めた♪」
「ごめんなさいね♪ 持ち出した情報でここまでは組み上げられたんだけど、タキオンコアだけはどうしても作れなくて。申し訳ないんだけど、コアの取り付け、お願いできる?」
──花蓮さんは、産業スパイだったのか!?
通りで、モテない俺に急接近して、妙に仲良くしてくれていたわけだ。
いや……これって、ハニートラップってやつか?
「組み込めって言われても、タキオンコアを作るには──」
そう言いかけたところで、花蓮はにっこりと笑って言った。
「はいはい、分かってますよ♪ なので、こちらに……出来上がったタキオンコアをご用意してあります♪」
──まるで、出来の悪い3分クッキングのようなセリフだ。
「それは、タキオンコア……いったいどこから!? まさか、JCNの素粒子コンピューターから持ってきたのか!? バカな、暴走するぞ!」
「いつ取り出したか知らないが、取り出してから12時間以内に専用のレギュレーターに納めないと、周辺20kmは蒸発するぞ!!」
だが、花蓮はまったく動じなかった。
「はいはい、だからこの素粒子コンピューターに組み込んでね♪
JCNのはもう破壊してきたから、ここに入れるしかないの。」
ミズキがタキオンコアを確認すると、コアが不安定状態に入ってからのカウントダウンが、残り5分を切っていた。
「……クソッ、間に合うのか……?」
そう呟くと、彼はコアを奪い取るように受け取り、すぐに接続作業に入る。
だが、コンソールには**“コア未接続”**のエラーが表示されていた。
「おかしい……確かに正しく接続したはずだ……!」
その様子を背後で見ていた花蓮が、まるで小学生のいたずらの後みたいな調子でつぶやいた。
「あれれぇ? おっかしいなぁ? 素粒子コンピューターは、完璧にコピーしたんですけどね〜?これは、不良品なのかな?」
「ダメっぽいんで、私はこれで失礼します~♪」
言い終えるや否や、小型ハンドロケットを背負って、壁を蹴ると天井のハッチから飛び出していった。
「おい、待──!」
だが、その声が届く前に──
そして、辺りが閃光に包まれた。




