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僕は連中の悪だくみを利用してやることにしました。

「どう? 該当する奴っていた?」

「ううん、あの中にはいないよ」


 王宮内の訓練所で談笑していた騎士達を指差して僕が小声で問いかけると、『漆黒盾キャスパリーグ』(ただしミニチュアサイズ)に変身してポケットの中にいるキャスが答える。


 キャスのおかげで部屋の引き出しから毒薬を発見した僕達は、早速部屋を出て行動に出た。

 もちろん、犯人捜しをするためだ。


 なお、その前に念のためサンドラの部屋にも同じように毒薬が仕込まれていないか確認するとともに、オルソン大臣にも事情を説明し、使節団の面々にも確認の徹底をお願いしている。

 これで、万が一犯人から毒薬に関して糾弾(きゅうだん)を受けても、問題なく対処できるはずだ。


「となると、やはり使用人の中の誰か、ということになりますね……」

「ええ……」


 僕達は最初、騎士団長の部下……つまり騎士達の誰かが毒薬を仕込んだと踏んで、この訓練場を訪れたわけだけど、考えられるのは使用人の誰かということになる。

 もちろん、例えばモニカのような暗殺に長けた者が王宮内に潜んでいる可能性も否定できないけど、それなら、わざわざ人目につくかもしれない扉から部屋に忍び込んでくるというような、そんな真似はしないだろう。


 とにかく、連中が間抜けで助かったよ。


「じゃあせっかくですので、僕達で王宮内を散策させてもらいましょう」

「ふふ、はい」


 サンドラの小さな手を取り、僕達は談笑しながら王宮の通路を練り歩く。

 デハウバルズ王国とは文化や歴史が違うので、まるで美術館デートでもしているような気分だよ。前世でそんなことをしたことは、一度もないけど。


 すると。


「モニカ?」

「ハロルド殿下にお嬢様、このようなところでどうなさったのですか?」

「ああ、実は……」


 通路を歩くモニカとばったりと出会った僕達は、部屋の中で毒薬を発見し、その犯人を捜していることを説明した。


「……私が不在の間にそのようなことをするとは、命知らずですね」

「ヒイイ」


 ごく(まれ)に見せる、モニカの青い炎のような静かな怒りを(たた)えた表情。

 思わず軽く悲鳴を上げてしまったけど、本気で怒った時の彼女はメッチャ怖いのだ。


「それで、一部始終を目撃したキャスに、誰が犯人なのか確認していただいているのです」

「なるほど。犯人はよほどの素人か、ただの馬鹿ですね」


 うんうん、モニカの評価は(おおむ)ね正しいと思うよ。


「そういうことでしたら、今そちらの部屋の中にいる者が、最も怪しいと思われます」

「というと?」

「はい。引き続き騎士団長の監視を続けていた際、接触した侍従がおりましたので、そちらに監視を切り替えたのです。ただ……」

「ただ?」

「その者、ポーラ妃殿下の侍従でした」


 なるほど……色々と見えてきたよ。

 まさかジャンのクーデター計画に、母親であるポーラ王妃まで絡んでいるなんてね。


「念のためキャスにその侍従が犯人か確認してもらって、一致したなら間違いないね。王太子だけでなく王妃まで加担しているとなれば、さすがに僕達だけでは手に負えない。そこで……」


 僕は周囲に誰もいないことを確認してから、サンドラとモニカ、それとポケットにいるキャスに耳打ちした。


「なるほど……さすがハル様です。聖女様の時と同じように、一気に叩き潰すわけですね」

「そういうことでしたら、ぜひこのモニカめにお任せください」

「もちろんボクだって頑張る!」


 本当に頼もしい婚約者と専属侍女、それに相棒だね。

 みんながいれば、『無能の悪童王子』の僕だけど、なんでもできるって思うよ。


「じゃあ、みんな頑張ろう! 絶対にこんなくだらない陰謀を阻止して、デハウバルズに大手を振って帰るんだ!」

「はい!」

「かしこまりました」

「うん!」


 ◇


「なんと! 犯人を突き止めたとな!?」

「はい」


 王宮にある謁見の間。

 僕は(かしず)(こうべ)を垂れ、驚きの声を上げるサロモン王に頷いた。


「そ、それで、犯人は誰なのだ!?」

「それに関しては、正式な裁判を経て執り行ったほうがよろしいかと。そのほうが、公明正大であらせられるサロモン陛下のもとに明らかにされたのだと、皆がより納得するでしょう」

「おお……! まさにハロルド殿下の申すとおりだ!」


 なんてことを言ってみるけど、僕はただ連中の逃げ場を無くし、一網打尽にしたいだけなんだけどね。

 それに、裁判という格好の舞台を用意してやれば、連中は間違いなくそれを利用するだろうから。


「そのためには、ぜひとも陛下の威光を示していただく必要があります。裁判におきましては、陛下にもご同席いただき、その結果を見守っていただきたく」

「無論だ! 余もこのような真似をしでかした逆賊の絶望する顔を、楽しみにしておるぞ!」

「お任せください。きっと、ご期待に沿えてみせます」


 ほうら、早速食いついているじゃないか。

 騎士団長の目には、困惑と期待が入り混じっているよ。


 それもそうだよね? だってオマエはジャンの指示を受け、この僕を犯人に仕立て上げるつもりだったのに、先手を打たれた格好になったんだから。


 なお、キャスが目撃した男は、やはり騎士団長に接触した侍従で間違いなかった。

 これで騎士団長だけでなく、ポーラ王妃もジャンと繋がっていることが確定したわけだ。


「ハロルド殿下、もうもったいぶらなくてもよいであろう。その犯人とは……?」


 あはは、まるでお菓子を待ちきれない子供みたいじゃないか。

 そんなに知りたいなら、教えてあげるよ。


「はい……犯人は――リゼット殿下です」

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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