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シナリオの黒幕は、感情を隠すのがヘタクソでした。

「ハロルド殿下よ、よくぞまいった」


 謁見の間にて(かしず)く僕に、カペティエン王国の国王、“サロモン=ランベール=サロモン=ド=カペティアン”が労いの言葉をかける。というか、自分の名前の中に、同じ名前が二つも入っているよ。


 なお、『エンハザ』においてはこの国王も、かろうじてイベントCGの一つに毒で苦しむシーンがあるだけで、国王なのに名前すらも登場しないモブ・オブ・モブだ。切ない。


「偉大なるサロモン陛下にお会いすることができ、恐悦至極に存じます。我がデハウバルズ王国は、今後ともカペティアン王国との強固な友好関係を望みます」


 あらかじめ用意しておいた口上を述べ、僕はさらに頭を下げた。


「うむ。余がこの国の王となってから、はや二十年。その間、互いに戦もせずに今ではこのような関係を築けたこと、嬉しく思う。エイバル陛下にも、余が感謝しておったことを伝えるがよい」

「はっ! ありがとうございます!」


 サロモン王は立ち上がり、従者を連れて謁見の間を出て行く。

 ふう……これで僕の一番の仕事である、国王との謁見を終えたぞ……って。


「…………………………」


 ジャンが、サロモン王の背中に向けてぎらついた視線を向けていた。

 オイオイ、あまり大っぴらにそんな目をしていると、王位を簒奪(さんだつ)するという野心が他の者達にバレてしまうぞ?


 ……まあ、どうなろうと知ったことじゃないけど。


「ハロルド殿下、お疲れさまでした。夜には殿下を歓迎する晩餐会を開催しますので、それまで部屋でゆっくりおくつろぎください」


 先程までの野心に満ちた瞳は鳴りを潜め、にこやかな表情でジャンが告げた。

 うんうん。僕はもうお疲れなので、お言葉に甘えることにするよ。


 すると。


「だ、だったら、この私がお部屋まで案内して差し上げますわ! 感謝なさい!」


 とても十四歳とは思えないような豊満な胸を張り、リゼットは偉そうに言い放つ。

 だけど、言っている内容は少しも偉そうじゃないんだけどね。むしろ、積極的にエスコートしたいだなんて、全然悪女(・・)になりきれてないじゃないか。このポンコツめ。


「では、せっかくですのでお言葉に甘えます。サンドラもそれでいいですか?」

「もちろんです」


 どうやらサンドラも、リゼットの性格を把握したみたいで、笑顔で頷いてくれた。

 ひょっとしたら彼女に嫉妬したりするんじゃないかと心配していたけど、特に問題なさそうでよかったよ。


「それじゃ、行きますわよ! 私についてきてくださいまし!」

「ハア……やれやれ」


 張り切るリゼットを見てジャンはかぶりを振るが、彼女はお構いなしに意気揚々と僕達を連れて退室した……んだけど。


「ふふ……ハル様に近づいたら、その時は……」


 先頭を歩くリゼットを見つめ、ニタア、と口の端を吊り上げるサンドラ。

 ごめん、やっぱり問題あるかも。


 ◇


「それでこの私が、言ってやったのですわ! 『あまりこの私を、舐めないことね!』と!」

「「…………………………」」


 はい、ハロルドです。

 僕とサンドラは今、急遽始まったリゼットの独演会に付き合っております。


 いや、だってさあ……部屋に案内されてから、まるで捨て猫のように寂しそうにチラチラと僕達の顔色を(うかが)うリゼットを見たら、心苦しくてお茶を誘わずにはいられなかったんだよ。

 そしたらどうだい。リゼットときたら、それはもう咲き誇るような笑顔を浮かべたかと思うと、また悪女(づら)して『どうしてもというなら、付き合って差し上げますわ』とか言い出すんだよ。


 これ、もはや悪女じゃなくて、ただのツンデレだよね。

 少なくとも僕が知ってる『エンハザ』では、こんなにあからさまじゃなかったし、もっと悪女としての顔も見せていたよ? どうしてこうなった。


「……リゼット殿下。差し出がましいことを申し上げますが、仮にも殿下は第一王女。使用人達へは優しく接して差し上げるべきです」

「っ!? よよ、余計なお世話ですわ! ……で、でも。気が向いたら、そうしてあげるのもやぶさかではなくってよ……」


 凛とした表情のサンドラにたしなめられ、リゼットがプイ、と顔を背けてしまった。

 だけど……あーあ、口元がゆるっゆるなんだけど。


 まあ、その気持ちはよく分かるよ。

 僕も前世の記憶を取り戻すまでは、同じように誰にも構ってもらえなくて、必死に媚びても、悪ぶってみても、存在を全然認めてもらえないんだから。


 たしか『エンハザ』のリゼットのメインシナリオでも、主人公は自分の境遇を重ねて(さと)すことで、彼女の好感度を上げるんだったよなあ。おそらく彼女の中で、サンドラへの好感度は爆上がりしていることだろう。


「皆様。そろそろ身支度を始めませんと、夜の晩餐会に間に合わなくなってしまいます」


 これまでキャスをあやしながら無言で僕達を見守っていたモニカが、抑揚のない声で告げた。

 モニカ、よく言ってくれた。独演会をようやく終えることができるよ。


「そ、そうだね。リゼット殿下も、晩餐会では楽しみにしております」

「ふえ!? え、ええ……そうね。あなた達は親善大使なのだから、王族である私の(そば)にいるはずですものね。し、仕方ないから、カペティアン王国での食事のマナーというものを教えて差し上げますわ」


 あからさまに落ち込んでいたリゼットだったが、僕の言葉ですぐに機嫌がよくなり、また悪女らしく振る舞おうとしているよ。盛大に失敗しているけど。

 というかもう、彼女のことは『ポンコツ悪女』でいいな。


「で、では、ちゃんと支度するんですのよ!」


 ビシッ! と人差し指を突きつけて告げると、リゼットは鼻歌でも歌い出しそうな様子で、ゴキゲンで部屋を出て行ったよ。

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