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シュヴァリエ家が勢ぞろいしました。

「ハル様、お待ちしておりました」


 シュヴァリエ家のタウンハウスに到着すると、玄関でサンドラが出迎えてくれた。

 だけど……僕の婚約者、天使かな? いやいや、女神かもしれない。


 だってさあ、白銀のドレスを着た彼女、メッチャ神々しいんだよ? それこそ眩しくて目も開けられないくらいに。

 こんなに素敵なサンドラが、どうして『エンハザ』のヒロインじゃないんだよ。


 まあ、そのおかげでウィルフレッドみたいな(くず)なんかにお手付きされることもなく、僕の婚約者でいてくれるんだけど。


「本日はお招きいただき、ありがとうございます。今日という日を、心から楽しみにしていました」

「まあ……」


 はい、嘘です。

 素敵な最推しの婚約者に逢えるのはメッチャ嬉しいけど、あのシュヴァリエ公爵と顔を合わせないといけないと思うだけで、この十日間はずっと胃が痛かったです。


 だけど、頬を赤らめて嬉しそうに微笑むサンドラを見られるなら、これくらいの嘘、いくらでも吐きますとも。


「さあさ、屋敷の中でお父様とお母様もお待ちしております。どうぞこちらへ……」

「あ、そ、その前にっ!」


 僕は用意しておいた、サファイアの指輪を取り出すと。


「え、ええと……これはその、ぼ、僕と君は婚約者同士で、それで、君は僕の婚約者だから、えと、あの……」


 ああもう、僕は何を言っているのかな。

 今日のために、あれだけ考えた言葉が、これっぽっちも出てこないよ。このポンコツめ。


「そ、その! この指輪を、君につけてほしいんです!」


 もう色々とすっ飛ばして、勢いに任せて言い放ってみた。

 結局お願いしたいことはそういうことなので、まあいいか。いや、よくないだろ。雰囲気もシチュエーションも全て台無しだよ。


 でも。


「これを……わ、私に……?」


 耳まで真っ赤になったサンドラの問いかけに、僕は思いきり強く頷いた。

 ちゃんと僕の想いが伝わったみたいで、よかったよ……。


 僕はゴクリ、と唾を飲み込み、彼女の左手を取ると。


「あ……」


 そっと、その細い薬指にはめた……って!?


「わっ!?」

「ハル様……嬉しい……嬉しいです……っ」


 僕の胸に飛び込み、サンドラは顔を(うず)める。

 少し肩が震えていることからも、泣いているみたいだ。


「よ、喜んでいただけてよかったです」

「当然です。もちろんです。こんなに嬉しいことは、他にはありません」


 胸の中から僕の顔を(のぞ)き込むサンドラのサファイアの瞳は、涙で(あふ)れていた。

 それがキラキラ輝いていて、とても綺麗で、吸い込まれそうで……。


「ウォッホン!」

「「っ!?」」


 ……セドリックの奴に邪魔されてしまい、台無しだよ。


 ◇


「……大人しく中で待っていればよろしかったものを」

「二人がなかなか来ないから、様子を見に来たのだよ」


 屋敷の中を歩く中、盛大に皮肉を言うサンドラのジト目に耐えかねたセドリックが、明後日の方向を向いて答えた。

 だけどセドリック、最初から僕達の邪魔をするつもりだったよね。あの時、してやったりとほくそ笑んでいた瞬間を、僕は見逃さなかったよ。


「さあ、父上も母上も、首を長くしておいでだ」

「は、はいっ」


 いよいよシュヴァリエ公爵と母君の待つ部屋の前に立った僕は、背筋を伸ばす。

 緊張のあまり、喉がメッチャ渇くし汗が止まらない。


「ハル様、ご心配には及びません。お父様……はともかく、お母様は本当に殿下にお会いするのを楽しみにされておられましたよ」


 一応フォローのつもりなんだろうけど、その情報、逆にプレッシャーです。

 そんなに期待されて、実際に会ってみてガッカリされたらどうしよう。


 そして。


「まあまあ! ハロルド殿下、ようこそいらっしゃいました! “ノーマ”と申します」

「あ……ハ、ハロルドと申します! 本日はお招きに預かり、光栄でしゅ!?」


 満面の笑みで迎えてくれたサンドラの母君……ノーマ夫人に自己紹介するも、声は上ずるは舌を噛むわで、ファーストコンタクトは印象最悪だよ。チックショウ。


「そんな緊張なさらないでくださいな。それより、どうぞこちらへ」

「は、はい。失礼します」


 ノーマ夫人に案内され、席に着くも。


「…………………………」


 ……はい。正面には仏頂面(ぶっちょうづら)のシュヴァリエ公爵が、腕組みして僕を睨んでいるよ。居たたまれない。

 しかも、ご丁寧にセドリックまでその隣に座って、ツープラトンで凝視してくるんだけど。こっち見んな。


「お父様、お兄様。どうして私のハル様に、そのような視線を向けておられるのですか?」

「「っ!?」」


 サンドラがクスリ、と微笑み、絶対零度の視線を向けて告げた瞬間、二人の顔から血の気が引いた。どうやらこの二人、サンドラには頭が上がらないみたいだ。僕の最推しの婚約者は、シュヴァリエ家最強なのだ。


「まあまあ、あなたもハロルド殿下との子供ができれば分かるわよ。だから、そんな顔しないの」

「っ!? お、お母様!?」


 ノーマ夫人のとんでも発言に、サンドラがゆでだこみたいに顔を真っ赤にした。どうやら僕の見立ては違ったみたいで、シュヴァリエ家最強はノーマ夫人だったよ。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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