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お嬢様の強さは諸刃の剣 ※モニカ=アシュトン視点

■モニカ=アシュトン視点


「ね、ねえモニカ……サンドラのことで、教えてほしいことがあるんだけど……」


 バルティアン聖王国の使節団が去ってしばらくしてから、ハロルド殿下が神妙な面持ちで声をかけてこられました。

 ええ、普段でしたら、もっと軽い様子ですのに、今回ばかりは私もふざけるわけにはいかなそうです。


「私でお答えできることでしたら」


 胸に手を当て、私はお辞儀をします。

 どこまでお力になれるか分かりませんが、敬愛する主君のため、知り得る限りのことをお答えいたしましょう。


「ありがとう。実は……」


 ハロルド殿下は、訥々(とつとつ)と話してくださいました。

 カルラ様との試合後の、お嬢様と聖女様との間にあった、一連の出来事について。


 ……はい。さすがにこれはお答えできません。

 このことをハロルド殿下が知ってしまわれたら、お二人の関係に亀裂が入ってしまうことは必至です。


「……それで、もしモニカが知っていることがあれば、教えてほしいんだ」

「申し訳ありません。残念ながら、私にも……」


 いいえ、本当は知っておりますとも。

 お嬢様の身に起きたことは、あの御方の持つ唯一無二の力が暴走したことによるもの。


 デハウバルズ王国建国時より名を連ねるシュヴァリエ家において、特別に選ばれし者のみが与えられし祝福。


 ――その力の名は、【竜の寵愛】。


 【竜の寵愛】を持つ者は、誰かを身を焦がすほど愛することにより、絶対的な力を得ることができるのです。

 それは、初代シュヴァリエ家当主である“シグルス=オブ=シュヴァリエ”の若かりし頃、伝説の竜ファフニールより力を授かったことが始まり。


 シグルス公は、【竜の寵愛】を初代国王である“サウェリン=ウェル=デハウバルズ”の妹姫であらせられる、“ルーン”姫に恋をしたことによって初めて発動させました。

 これにより、海の向こうより押し寄せてきた大国、“ノルディア帝国”を撃退し、デハウバルズ王国は列強国の一つに列せられることになったのです。


 ただ……三百年にわたる長い歴史の中、この【竜の寵愛】の力を持ったシュヴァリエ家の人間は、初代シグルス公を除けば、もう一人とお嬢様の二人のみ。


 だからこそ、お嬢様が真の(・・)シュヴァリエ家当主なのですが。


「そうかー……姉妹みたいな関係のモニカなら、ひょっとしたら知っているかと思ったんだけど……」

「お役に立てず、申し訳ございません」


 心苦しいですが、こればかりは仕方ありません。

 ただ……どうしてこうなったか、お嬢様を問い(ただ)さなければいけませんね。


 肩を落とされるハロルド殿下に心からの謝罪をし、この後すぐにシュヴァリエ家のタウンハウスへと向かいました。


 ◇


「それで、お嬢様はどうしてそのようなことを?」

「…………………………」


 先程から何度も問い詰めているのですが、お嬢様は気まずそうに目を逸らします。

 お嬢様ご自身も、してはいけなかったことだと自覚なさっているのでしょう。


「ハア……もしハロルド殿下が、お嬢様に幻滅されてしまったら、どうなさるおつもりだったのですか」

「っ!? し、仕方なかったんです! あの者は……聖女は、私の(・・)ハル様にとても無礼な真似を働いたのですよ!? なら、どうして怒りを抑えることができるというのですか!」

「ご自身の失態を棚に上げ、そのように逆上されても困ります」

「あう……」


 絶大な力を誇る【竜の寵愛】ですが、やはり代償も求められます。

 それは、相手の方を愛してしまい過ぎるがゆえに、暴走してしまうのです。


 誰にも、手がつけられないほどに。


 今から七年前、ハロルド殿下をお見初めになられたことで【竜の寵愛】が発動し、暴走してしまった時は大変でした。

 当主であらせられるお館様やセドリック様をはじめ、多くの方が満身創痍になって、ようやくお止めすることができたほどですから。


 愛しのハロルド殿下の前でそのようなことが起こらないよう、己を律するための特訓を重ね、ようやく婚約までこぎつけたのですから、自分で台無しにしては本末転倒です。


「ハロルド殿下がお(そば)におられたことが、せめてもの救いでした。ただし、お嬢様のあのお姿をご覧になられて、僅かでも幻滅なされたかもしれませんが」

「そ、そんな……」


 まあ、ハロルド殿下を見る限り、そんな様子は(うかが)えませんでしたので大丈夫だとは思いますが、お嬢様には良い薬です。


「いずれにいたしましても、これ以上の暴走はお気をつけくださいませ。特に、ハロルド殿下に対しては」


 そう……【竜の寵愛】による暴走の最も恐ろしいところは、それが愛する方ご本人に向いてしまった時。


 シュヴァリエ家に伝わる文献によれば、シグルス公は強靭な精神力で何とか最後まで理性を保つことができたそうですが、【竜の寵愛】が発動したもう一人の御方は、抗うことができず、相手の方を監禁し、心が壊れてしまうまで歪んだ愛を捧げたとのこと。


 そのようなことになってしまったら、お二人が不幸になってしまわれますから。


「とにかく、二度とこのようなことがありませぬよう」

「は、はい……」


 厳しいようですが、こればかりは仕方ありません。

 このモニカ=アシュトン、誰よりもハロルド殿下とお嬢様の幸せを願っておりますので。


 落ち込むお嬢様に一礼し、私は王宮へと戻りました。

お読みいただき、ありがとうございました!


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