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聖騎士ヒロインとの最高の試合を、無粋な第一王子が全て台無しにしました。

「…………………………」

「…………………………」


カーディスの試合開始の合図から数分。

僕とカルラは、今もお互い武器を構えたまま、微動だにしない。


といっても、僕はそもそも盾だし、相手の攻撃を待ち続けることしかできないんだけどね。

仮に盾で殴りかかったところで、逆に隙だらけになってあっという間にやられてしまうよ。


「カルラ、どうしたのですか? せっかくハロルド殿下はあなたの攻撃を受け続けてくださると言っているのに、ひょっとして、遠慮しているのですか?」


しびれを切らしたのか、クリスティアが(あお)った。

それを皮切りに、他の者達も次々と急かしてくる。その中には、審判であるはずのカーディスまでも。


「ハア……俺もハロルド兄上の弟として、情けないです……」

「ウィルフレッド様……」


こめかみを押さえてかぶりを振るウィルフレッドを、エメラルドの瞳を潤ませて見つめるクリスティアの姿が視界に入る。

というか、イチャイチャしたいなら他所でやってくれないかな。視界の端でそんなことされたら、迷惑なんだけど。


「チッ……勝手なことを言ってくれる……っ」


そんな外野の声に辟易(へきえき)したのか、カルラが顔をしかめて舌打ちをした。

その気持ち、メッチャ分かる。


「……ですが、ハロルド殿下は恐ろしい方だ。先程から幾度となく牽制(けんせい)しているにもかかわらず、全く(すき)がない」

「あ、あははー……」


ちょっと僕に対する評価が過大なんじゃないかな。それに、(すき)がないのはむしろそっちじゃないの? おかげで僕は、亀になるしかないんだけど。


「とはいえ、このままでは(らち)が明かないのも事実。では……まいる!」

「っ!?」


意を決したカルラは、剣を正眼に構えたまま地面を蹴った。

うわっ、速いなあ。ひょっとしたら、サンドラの兄であるセドリックよりも上かもしれない。


でも。


「っ!? やはり防がれるか!」

「もちろん!」


それよりも何倍も速くて重いサンドラの攻撃を、僕は日々の特訓の中で受け止めているんだ。それに比べたら、これくらいできるさ。


その後も、僕はカルラの息も吐かせぬ剣撃を受け止め続けたところで、カルラが距離を取って息を整える。

僕もそれに合わせ、大きく深呼吸した。


この時には、もう外野の声も、ウィルフレッドやカーディス、クリスティアのことなんてすっかり眼中になかったよ。

サンドラ達の僕の背中を後押しする視線だけを、しっかりと受け止めて。


「フフ……最初は迷惑かつ失礼な話だと思ったが、今となっては聖女様に感謝しなければ」

「カルラ殿?」

「そうでしょう? これほどまでにお強い(・・・)ハロルド殿下と、思う存分闘うことができるのですから」


カルラはそれはもう満面の笑みを向け、嬉しそうに告げる。

ああー……そういえば彼女、普段は聖騎士として己を律しているけど、その実『エンハザ』でも屈指の戦闘狂(バトルマニア)だったなあ。


「あははっ」


そのことを思い出し、僕はクスリ、と笑う。

ヒロイン達と関わりたくないって思ってはいても、やっぱりファンとして『エンハザ』のヒロインに現実として会うとやっぱり嬉しいし、わくわくしてしまうね。


「ならば、ハロルド殿下にはぜひともお受けいただきたい。このカルラ=デルミニオが誇る、最大の技を」


カルラは腰を落とし、木剣を上段に構える。

この構え、『エンハザ』で彼女があの(・・)スキルを使用する時の演出で見たよ。


――地属性最強の必殺スキル、【ダイレクトドライブ】。


「まいる! ダイレクトドライブッッッ!」

「っ! 来る!」


一気に跳躍し、渾身の力を持ってカルラは剣を振り下ろす。

まるで、夜空に降り注ぐ流星のように、幾重もの剣の連撃を放って。。


だけど。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」

「ぐ……っ! このおおおおおおおおおおおッッッ!」


僕は盾を上に構え、気合いとともにその一撃一撃を、全て受け止めてみせた。

もし【金剛不壊(ふえ)】の『称号』を手に入れてなかったら、僕はこの技を防ぐことができなかったかもしれない。


……いや、そもそもサンドラの特訓がなければ、瞬殺されていたよね。

前世の記憶を取り戻し、最推しの婚約者に出逢ったことで始まった、僕の生き残るための戦いだけど、みんなのおかげでこんなにも強くなれたよ。


だから。


「僕は絶対に負けない! どんな攻撃だって、全部防いでみせるッッッ!」

「やあああああああああああああああッッッ!」


僕とカルラの叫びが、訓練場にこだまする。

お互いに一歩も譲らず、一歩も引かず、かたや剣を振るい、かたや盾で防ぐ。


そんな一進一退を繰り広げ、スキルの使用によってSPを全て消費したカルラの攻撃は、全て通常攻撃のみとなった、

それでも、彼女は剣を止めない。力の限り、指一本でも動くなら、最後まで闘い続けるだろう。


カルラ=デルミニオは、そういうヒロインだから。


「フフ! 楽しい! 楽しいぞ!」

「クハハ! そうですね!」


気づけば僕も、そんな彼女に引き込まれ、この試合に夢中になっていた。

もちろん、僕はひたすらカルラの攻撃を受け続けるだけではあるんだけど。


なのに。


「……この勝負、カルラ=デルミニオ卿の勝ちとする」

「「っ!?」」


審判を務めるカーディスが顔をしかめ、無情にも試合終了を告げた。

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