僕の専属侍女が、あっさりと裏切ってくれました。
「それで……どうしてこんな深夜であるにもかかわらず、あのような場所にいらっしゃったのでしょうか?」
「「…………………………」」
部屋に戻るなり、僕とキャスは正座しながらモニカの詰問を受けております。
というか、モニカはどうしてあの場所にいたんだろう。むしろ、そっちのほうが不思議なんだけど。
「ハロルド殿下、キャスさん、聞いておりましたか?」
「「は、はい!」」
いけない。そんなことよりも、今はモニカの追求を躱すことを考えないと。
キャスだって、僕との約束を守ってこうして黙秘を続けてくれているんだから。
「い、いやー。僕も最初、王宮内にあんなところがあるなんて、思いもよらなかったよ。だけど、中は大したものはなかったけどね」
はい、嘘です。ライオンのゴーレムと吸血コウモリが、わんさかいますが何か。
「そうですか。では、私とお嬢様があの中に入っても、何も問題はないということですね?」
「っ!?」
チクショウ、モニカも僕を追い詰めるのが上手いな……。
彼女は元々暗殺者だから、こういった尋問も得意なのかもしれない。今の僕には厄介極まりないけど。
「ハア……私もハロルド殿下には、それなりに信頼いただいたと思っておりましたが、悲しいですね……」
よよよ、とわざとらしく目元を押さえるモニカに、色々と言ってやりたいけど……ああもう、しょうがないなあ……。
「……サンドラには、絶対に秘密にしてよ?」
「もちろんでございます。私は殿下の忠実な僕ですから」
急に凛々しい表情になり、モニカはクイッと眼鏡を持ち上げてそんなことを宣う。
胡散臭さが漂うものの、今は彼女の言葉を信用するしかない。
ということで、僕はあの迷宮について簡単に説明する。
王宮の文献を漁ったら、たまたま初代国王が王宮内に遺したとされる迷宮の存在を知り、キャスと試しに探索をしたこと。
中には魔獣が巣食っているけど、僕達の実力なら何も問題はないこと。
そして。
「……迷宮の一番奥には、王族のみ与えられる『称号』があるらしくて、それを手にすれば、力を得られるみたいなんだ。ただし、そこへは一人で向かわなければならない」
はい、これも嘘です。パーティーメンバーの人数に、制限はありません。
ただし、全員に同じ『称号』が付与され、以降は付け替え不可になってしまうので、僕も前世ではいつもヒロインのソロで『称号』クエストをクリアしていたなあ。
「なるほど……では、その文献を拝見させていただいてもよろしいですか?」
「いや、残念ながら、僕が全てを読み終わると、光の粒子になって消えてしまったんだ」
はい、当然嘘です。前世で読んだラノベにそんなシーンがあったから、そのままパク……オマージュしただけです。
「……とにかく、分かりました。ですが、殿下の安全が確認できないことには、迷宮への立ち入りを認めるわけにはまいりません」
「う……」
モニカはジト目で睨みつつも、追求するつもりはないようだ。
だけど、あの迷宮に行っちゃ駄目と言われてしまったよ。どうしよう。
「それと、殿下のお話ですと、『迷宮の一番奥には一人で』とのことですが、その手前までなら同行者がいても問題がないのでは?」
「あ……」
そういえばそうだ。
僕は馬鹿正直に最初からソロプレイを前提に考えていたけど、途中までは一緒でも問題ないかも。
「どうやら差し支えなさそうですので、どうしても行かれるのであれば、せめてこの私もお連れくださいませ」
モニカは胸に手を当て、深々とお辞儀をした。
それに、今の口振りだとサンドラにも秘密にしてくれるみたいだ。
「ありがとう……こんなことなら、最初からモニカには相談するべきだったと、心から後悔しているよ」
「そのとおりです。ハロルド殿下は、こんな最高に美しく有能な侍女を除け者にしたことを、海よりも深く反省してください」
えー……ちょっと謝ったら、メッチャ調子に乗ってドヤッてきたよ。
とりあえず面倒だから、彼女の自画自賛は無視することにして。
「だけど、これだけは約束してくれ。迷宮の最深部には、僕一人だけで行くことを」
あの迷宮で入手できる『称号』は優秀だし、僕にはこれしかないってものだけど、モニカにはもっと相応しい『称号』がある。
彼女には絶対にそちらを入手してもらいたいので、間違ってもたった一つしかない『称号』枠を埋めてほしくない。
「かしこまりました。このモニカ、最深部の手前で殿下のお戻りをお待ちしております」
「うん」
よしよし、これでモニカも説得できたし、これからの迷宮攻略も問題なく進めることができるだろう。
傅くモニカを見つめ、僕は満足げに頷いた……んだけど。
「露払いはお任せください。迷宮の最深部まで、このアレクサンドラがハル様をお守りいたします」
おのれモニカ。速攻でバラしてるじゃないか。
ちょっとでも信じた僕が馬鹿だったよ。チクショウ。
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