眷属は真の主に剣を捧げる ※セドリック=オブ=シュヴァリエ視点
■セドリック=オブ=シュヴァリエ視点
「であるからして……」
今日もいつもどおりのつまらない授業をそっちのけで、腕組みしながら思案していた。
もちろん、最愛の妹と、その婚約者であるハロルド殿下のことについて。
私が王立学院に入学してから初めて、あのアレクサンドラが『お兄様に逢いたい』との連絡を受け、授業を全て放り出して王都のタウンハウスに帰宅したというのに、待っていたのが『ハロルド殿下を婿養子に』という頼み事だったのだから、それはもう頭を抱えたとも。
確かにハロルド殿下は第三王子ということもあり、後継者となり得る男子のいない他国の王女や有力貴族の令嬢に入り婿するというのは、ない話ではない。
だが、シュヴァリエ家には私というれっきとした後継者もおり、ハロルド殿下を婿として迎える必要もない。
何より、シュヴァリエ家が誇る一輪の花を奪い、独り占めしている『無能の悪童王子』を、どうして受け入れられようか。
などと考えていたのだが……。
「ハア……なかなか複雑だな……」
私はこめかみを押さえ、溜息を吐く。
まず、世間のハロルド殿下の評価は、昨日面会した際に全てはくだらないデマであることは理解した。
もちろん、手合わせで敗れ、愛しのアレクサンドラの前で醜態を晒してしまったことはこの上ない屈辱ではあるが、彼は間違いなく実力で勝利したのだ。
この、王立学院において同い年である第一王子のカーディス殿下を差し置いて、座学でも実技でも一位を誇る、この私に。
また、認めたくはないがタウンハウスで初めて顔を合わせた時から、ハロルド殿下は常に礼儀を弁え、噂のように卑屈で横柄に振る舞うことも決してなかった。
それ以上に、ハロルド殿下は婚約者であるアレクサンドラを気遣い、尊重し、寄り添う姿に、兄として複雑な気分ではあったが。
そして、昨夜の久しぶりのアレクサンドラとの夕食で聞かされた、ハロルド殿下が王宮内で置かれている現状。
元々評判の悪いハロルド殿下なので、王宮内でも立場が悪いことは周知の事実であり、今さらではある。
だが、これまでカーディス殿下に卑屈なまでに従っていた彼が、ここにきて袂を分かったことにも驚いたが、その原因を作ったカーディス殿下に何よりも驚いた。
なんと、派閥にあの『穢れた王子』を組み込んだのだから。
それも、自身の右腕として。
しがない男爵令嬢で愛人の分際で、恥知らずにも王位継承権を主張したことによって第四王子となってしまった、不義の子。
その生い立ちや置かれている境遇に同情する余地がないこともないが、かといって王国最大派閥であるシュヴァリエ家として、我等の『竜の寵愛』をそのような存在に与えるわけにはいかない……って。
「セドリック、どうしたのだ?」
カーディス殿下が、不思議そうな顔で見つめる。
どうやら、既に授業が終わっていたようだ。
「ああいえ……少し考え事をしていたもので……」
「そうか」
私は取り繕うようにそう告げると、カーディス殿下は興味を失い、教室を出て行く。
なのに。
「……なんだ?」
「カーディス殿下、少々お尋ねしたいことが」
気づけば私は、カーディス殿下の腕をつかんで引き留めていた。
そもそも、カーディス殿下に何を尋ねようというのだ。『ハロルド殿下からシュヴァリエ家に婿養子に来たいとの申し出を受けた』『カーディス殿下の派閥から離脱した』ことを聞けというのか? 馬鹿な。
だが、カーディス殿下も馬鹿ではない。私の考えを読み取ったようで、深く溜息を吐くと。
「私も驚いている。無能な実の弟の馬鹿さ加減に、辟易としているところだ」
「…………………………」
なるほど。私の意図を理解するだけの聡明さを持ち合わせているにも関わらず。肝心の弟の気持ちは理解できないのだな。
これまで尽くしてきた彼を侮辱するような真似をしておいて、何故このような結果を招いたのか、本気で分かっていないようだ。
これでは、確かにハロルド殿下も報われない。
「まあ、午前の授業が終わったら王宮に戻ってハロルドと話をするつもりだ。お前とも、これから親戚同士となるというのに、世話をかけるな」
この男は、何を勘違いしているのだろうか。
まるでアレクサンドラとハロルド殿下が結婚すれば、シュヴァリエ家が貴様を支援するとでも思っているみたいではないか。
二人の結婚に、貴様は一切関係ないというのに。
「ではな」
カーディス殿下は、従者を連れて今度こそ教室を出て行った。
「アレクサンドラ、私もようやく理解したよ」
ハロルド殿下の王宮を出たいという思いも、そんな彼を守りたいという妹の願いも。
何より、彼女は昨夜、この私にはっきりと告げた。
『私の『竜の寵愛』は、全てハロルド殿下に』
宝剣『バルムング』を所有する、真のシュヴァリエ家当主が『竜の寵愛』を捧げたのだ。
ならば、眷属であるこの私は、それに従うのみ。
全てを理解した以上、もはや私に躊躇いはない。
これからは、私もハロルド殿下の助けとなることを誓おう。
……まあ、だからといってアレクサンドラとハロルド殿下の婚約を、認めたわけではないがな。
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