専属メイドが嫉妬する
『無能の悪童王子は生き残りたい』第3巻は絶賛発売中!
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「……なあ、元璋。君は王立学院へ留学する際、何も問題はなかったのか?」
僕はずっと気になっていたことを、おもむろに尋ねた。
「む、それはどういう意味だ?」
こちらの質問の意図が分からず、元璋は首を傾げる。
「い、いや。ほら、デハウバルズ王国と蔡帝国では、かなり離れているじゃないか。それこそ、移動するだけで数か月はかかってしまうほどに」
僕は取って付けたように答えるが、本当はそういうことを言いたいわけじゃない。
『エンハザ』の淑恵のシナリオでは、主君である元璋は本編開始時点において既に死亡している設定。つまり、本来はこうして生きているはずがないんだ。
念のためこの世界の管理者であるテミスにも確認したが、元璋の死亡は確定らしい。
なら、どうしてこの男は今も健在で、僕達の前にいるのだろうか。
「うむうむ、ハロルドが気になるのも理解できるぞ。確かに余はこの国へ渡るまでの間、苦難の連続であったからな。何せ、余が王立学院にたどり着いたのは、ほんの二週間前である故」
「二週間前!?」
元璋の言葉に、僕は思わず声を上げる。
『エンハザ』本編が始まるのは、今から半年前。二年生に進級した時だ。
そして彼は僕と同い年。つまり、本来であれば一年半前に留学していなければならない。
「……デハウバルズ王国に向けて航海中、嵐により船が難破し、殿下は行方不明となられました。八方手を尽くして捜したものの、殿下を発見するには至らなかったのです……」
僕達の会話を聞いていた淑恵が、唇を噛み悔しそうに告げる。
ああ、なるほど。『エンハザ』本編開始時、元璋は行方不明のままだったから、死亡扱いされたんだな。
「グハハハハハハ! まあ、余の実力をもってすればどのような場所であっても生き抜くことなど容易い! 途中、連れ去られて奴隷にさせられておったが、余の威光に跪き、進んで同盟を申し出た者もおったのでな!」
「そ、そう……」
高笑いする元璋だが、色々とツッコミどころ満載だな。
そもそも奴隷にさせられたってなんだよ。しかも同盟って……。
「協力者の手によって解放された殿下は、拙者と合流することができ、無事に王立学院へ逃げることができた次第です」
「? 逃げる……?」
「淑恵!」
「っ!? 申し訳ございません!」
淑恵の言葉に僕が首を傾げると、元璋が怒鳴る。
そのため、彼女は萎縮して平伏してしまった。
「グハハハハハハ! まあとにかく、今はこうして学院生活と推し活に注力をしておる」
打って変わり、豪快に笑う元璋。
その姿は、『これ以上話すことはない』と言外に告げているようだった。
◇
「ハロルド殿下、私は悲しいです。これまで誠心誠意尽くしてきたというのに、そのようなものに心を奪われてしまわれるなんて……」
夜になり、モニカがハンカチで目元を押さえながら、そんなことを宣う。
どうやら彼女は、元璋秘蔵のコレクション(薄い本)が気に入らないらしい。
こう言ってはなんだが、モニカがいつも(勝手に)忍ばせる代物は、いずれもマニアック過ぎる(特にメイドに調教される系)ので、残念ながら僕の性癖には刺さらないんだよ。
「それより、モニカはどう思う?」
「? どうとは?」
「元璋のことだ」
昼間の会話では、一年以上も行方不明で、しかも協力者の手によって救出されたということだった。
『エンハザ』では死亡扱いとなっていた彼が生きていたということに、僕は違和感を覚えてならない。
「……あの場での元璋殿下と淑恵様の反応は、ハロルド殿下のおっしゃるとおり私も気になりました。とはいえ、あの二人から我々に対して敵意などは見受けられません。どのような事情があるにせよ、ひとまずは問題ないかと」
「そうだな……」
僕も元璋と知り合ってまだ二日とはいえ、少々面倒くさいところはあるものの、悪い奴だとは思えない。
淑恵については、『エンハザ』のヒロインということもあり、その性格や行動原理など全て熟知している。
そう考えると、モニカの言うとおり僕の考えすぎかもしれない。
「分かった。でも、念のためあの二人には注意しておいてくれ。例のモストロ=モノスとかいう奴のこともあるし、警戒しておくに越したことはない」
「かしこまりました」
モニカは恭しく一礼し、部屋を出る。
さて……これで、この部屋には僕しかいない。一応キャスもいるが、お子様な相棒は、既に夢の中だ。
ということで。
「くくく……僕はゆっくりと、元璋のコレクションを熟読するだけ……」
「ハロルド殿下」
「っ!?」
背後からの声に、僕は勢いよく振り返る。
ば、馬鹿な……いつもならこのまま、部屋に帰るはずなのに……っ。
「……そんなことだろうと思いました。いえ、邪魔をしようとは思っておりません……が、たまには私がご用意したものや、なんならこの私自身でお慰めしてもよろしいのでは?」
「いいい、いらないから!」
胸元を大きく開けて迫るモニカを押し退け、僕は慌ててベッドに潜った。
残念ながら、今日のところは諦めるしかないようだ。チクショウ、こんなの眠れない。
お読みいただき、ありがとうございました!
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