東方から来た二次元推しの巨人
『無能の悪童王子は生き残りたい』第3巻が4月12日発売!
あとがきもぜひご覧くださいませ!!!
「ぬうううううッッッ! 貴様! この余に対し不敬であるぞ!」
こんにちは、ハロルドです。
今日もサンドラ達や新たに同じクラスになったデスピナによる抗争(?)巻き込まれた僕は、逃げるようにして教室から出てきたんだけど、運が悪いことに廊下を歩く大男とぶつかってしまった。
とにかくこの大男、身長は確実に一九〇センチは超えていると思われ、制服がはちきれんばかりの筋骨隆々の身体、ショートな黒髪の後ろに三つ編みをしているという、なんとも奇抜な格好をしていた。
そう……一目見た瞬間、この大男が非常に面倒くさい奴だということを、一瞬にして理解したとも。
ただ、こんな男はエンハザでもガルハザでも見たことがない。となると、エンハザセカンドの可能性があるんだけど、生憎ここにはテミスがいないから、分からないんだよな。
まあ、寄宿舎に帰ったら確認してみるか。
「何をぶつぶつ言っておる! あくまでもこの余を愚弄するというのだな!」
「い、いえいえ、滅相もない。ところでその……余様はどちらの余様で?」
今すぐ立ち去りたいところだが、それはそれで余計に絡まれそうな予感があいたため、へりくだって丁寧にお辞儀をしつつ尋ねる。
ひょっとしたら名前だけ登場するモブかもしれないし、念のため確認しておこう。
だが、これが失敗だった。
「き……き……貴様ああああああああああッッッ! 一度ならず二度までも余を侮辱しおってッッッ!」
「うおっ!?」
襟首を思いきりつかまれ、僕の身体が軽々と持ち上がる。
残念ながら、僕の社交辞令スキルはこの男に通用しなかったようだ。一体何がいけないのだろうか。
「そ、その、苦しいんだが」
「黙れ! よいか、ならば教えてやる! 余の名は“黄元璋”! 東の大国蔡帝国の皇太子であるぞ!」
なるほど、この男は蔡帝国の皇子ということか。とてもじゃないが皇族には見えないし、むしろ山賊とか言われたほうがしっくりくる。
とはいえ、どうしたものか……。
などと考えていると。
「っ!? でで、殿下、おやめください!」
元璋という男の背後から聞こえた、よく通る凛とした声。
身体をよじって後ろを覗き込むと、そこには光の反射で藤色にも見える長い髪を三つ編みにした、同じく藤色の瞳が特徴的な綺麗な女子生徒。
この男は知らないが、彼女なら知っている。
『エンゲージ・ハザード』に登場するヒロインの一人、“林淑恵”。東方の大国の将軍の娘で、主君を亡くして悲しみに暮れる中、父親である林将軍の勧めで療養を兼ねて王立学院に留学したという設定だったな。
「む! 淑恵、何故止める! この男は、皇太子である余に不敬を……」
「不敬を働いているのは殿下もです! この御方はこの国の王子、ハロルド殿下です!」
「なんじゃと!?」
淑恵の言葉に、僕の胸襟をつかむ元璋の手が緩む。
その隙に僕は離れ、距離を取った。
「貴様、真か!?」
「ああ。僕の名はハロルド=ウェル=デハウバルズ。デハウバルズ王国の第三王子だ」
首元をさすりながら、僕は名乗る。
するとどうだろう。元璋の顔が『やってしまった』と言外に告げていた。どうやら物の分別くらいはついているようだ。
「ぬおおおおおおおおおッッッ! ここ、これは失礼いたした! まさか余と同格とは思ってもおらず、どうか許されよ!」
「っ!?」
いきなり勢いよく跪いたかと思うと、そのまま額を床に擦りつけ土下座する元璋。
『エンハザ』の世界に転生した僕はともかく、中性ヨーロッパを舞台にした世界だというのに、登場キャラの土下座率が異様に高いのはどういうことだろうか。
「ぼ、僕は気にしていない。それより、そろそろ僕は……」
「いました! ハル様!」
「っ!?」
さっさとこの場から離れたかった僕は、適当に取り繕うとしたのだが、残念ながら教室を飛び出してきたサンドラ達に見つかってしまった。
争いに巻き込まれたくなくて逃げようと思ったのに、これじゃ台無しだ。
「ハル様、勝手にいなくなったりするのはおやめくださいませ。……まあ、この野蛮な田舎者と同じ空気を吸いたくないというのは、非常によく理解できますが」
「は? ていうかハロルドも可哀想だよね。こんな激重な女が奥さんなんて。そ、その、あたしだったら束縛なんてしないで、もっと優しくしてあげるのに」
「っ!? ふふ……ふふふ……うふふふふ……言うに事を欠いて、浅ましいにも程がありますね」
残念ながらこの二人、全然仲直りをする気配がない。
ちらり、と彼女達の後ろを見やると、お腹を抱えて笑っているモニカの姿が。いや、少しは止めろよ。
「ウフフ、確かにデスピナさんの言葉にも一理ありますね。やはり素敵な殿方を、たった一人が独占するというのはいただけませんし」
「な、何を言ってますの!? もも、もちろんハルは王族なのだから、別に一人にこだわる必要はありませんけど……」
「そそ、そうです! あまりハル殿を困らせるのはいかがなものかと! ……私はやぶさかではありませんが」
ややこしいことに、クリスティア、リゼ、カルラまで訳の分からないことを言い出している。
これじゃまるで、僕がナローシュみたいじゃないか。残念ながら、前世では一夫一妻制が当たり前の世界だったから、そういうのはファンタジーだけで充分なんだよ。
また喧嘩を始めたサンドラ達を尻目に、気配を消してこの場を去ろうとすると。
「……これはお詫びの印故、受け取ってくだされ」
「え……?」
元璋が差し出したのは、一冊の薄い本。
つまり、僕が寄宿舎のベッドの下や本棚の裏側に隠している類のものと同じ物だ。
どうしてこの男がそんなものを僕に渡してきたのかは分からない。
だが……僕は彼と、仲良くなれる気がした。
お読みいただき、ありがとうございました!
第3巻発売記念として、4話構成で特別編を更新していきます!
このたび、『無能の悪童王子は生き残りたい』第3巻が、GA文庫様から4月12日に発売されます!
早い書店様では、既に並んでいるところも!
お見かけの際は、ぜひお手に取ってくださいませ!
3巻では『エンハザ』の舞台となる王立学院編へ突入!
乙女ゲーム版『エンハザ』の主人公、肉食女子のリリアナが大暴れ!
そしてそして、ハロルドの前世でどうしても勝てなかった、ユーザーランキング1位の影も……!
全編書き下ろしの第3巻、どうぞお見逃しなく!!!
また、メロンブックス様で特典SSがあるほか、電子書籍版は3巻だけでなく1・2巻にも特典SSが!
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