本当のシナリオ【後編】
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「捨てられた回復魔法の愛し子と、裏切られた災厄の黒竜姫が出逢ったら」
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「兄上! 本当にこのままでいいのですか!」
王室主催のパーティーの場で、僕は実の兄であり第一王子のカーディスに詰め寄る。
もちろん、最近のウィルフレッドの目に余る行動についてだ。
あの男は、あろうことか王立学院では手当たり次第に言い寄り、何人もの女を侍らせていた。
『世界一の婚約者』を見つけるためと言えば聞こえはいいが、あれではただ節操がないだけのだらしない男に過ぎない。愛人サマンサの血を引いているのも頷ける。
女共も女共だ。そのような扱われ方をしているというのに、それがどうしたと言わんばかりに受け入れているじゃないか。
そんな女が『世界一の婚約者』などあり得ないし、ウィルフレッドが王に相応しくないことも明らかだ。
だというのに。
「まあそう言うな。ウィルフレッドも、大した男じゃないか」
「兄上……」
そう……カーディス兄上は変わってしまった。
国王陛下の『世界一の婚約者を連れてきた者を、次の王とする』の宣言前までは野心に満ち溢れ、あれほどラファエルと次期国王の座を争っていたというのに、今ではどこか諦めている節がある。
……いや、まるでウィルフレッドこそが、次の王に相応しいとでもいうかのように。
「とにかく、僕は認めません。あんな『穢れた王子』が、次の王であってたまるか」
「ふう……ハロルドもいい加減気づけ。お前では、ウィルフレッドの足元にも及ばないことを」
「…………………………」
息を吐いてかぶりを振るカーディスの傍から、僕は無言で離れる。
ああ、僕には才能がないさ。
これまでどれだけ努力しようが、僕の中にある王族の証……【デハウバルズの紋章】は、一度たりとも発動してくれることがないのだから。
それだけじゃない。他の祝福もまるで使うことができない。つまり僕は、平民にすらも劣っているということ。
そんなことは、言われなくても分かっているんだよ。
だがそれでも、僕はあの男だけは認めるわけにはいかない。
絶対に、認めてたまるか……って。
「ハロルド殿下」
声をかけてきたのは、アレクサンドラだった。
「なんだ。もう貴様とは婚約者でも何でもない。気安く話しかけてくるな」
「……それは存じております。ですが、せめて最後に一目だけでもと、我儘を押し通してお会いしにまいりました」
「はっ! 最後などと、大仰なことだな!」
僕はわざとらしく両手を広げ、吐き捨てるように告げる。
この女も、何が楽しくてこんな『無能の悪童王子』に話しかけてくるというんだ。
婚約破棄をしたのだから、いい加減僕なんかを見限って、他の男でも探せばいいのに。
「まあいい。こっちは貴様のように暇じゃないんだ。僕に会えて満足したなら、さっさとどこにでも行け」
「……失礼いたします」
アレクサンドラは優雅にカーテシーをすると、そのままどこかへ行ってしまった。
「……本当に、何なんだよ」
うつむいたままで、青い瞳に涙なんか湛えて。
僕みたいな男と別れられたんだから、もっと素直に喜べばいいのに。
こんななりたくもない次の王を目指すために、婚約者を捨てるしかない『無能の悪童王子』なんか忘れて。
だけど、僕はこの日のことを死ぬまで……いや、死んだ後も後悔する。
何故なら――。
――アレクサンドラが、謀反の罪で処刑されてしまったから。
◇
「くそ! くそ! くそおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
王都のはずれにある、小さな処刑場。
断頭台に固定された僕は、大声で叫んだ。
「ハロルド兄上、残念です。嫉妬に狂い、こんなことまでなさるなんて……」
そう言ってかぶりを振るのは、ウィルフレッド。その周りには、聖女クリスティアをはじめ多くの女がいる。
そう……僕はウィルフレッドを亡き者にするため、クーデターを起こした。
カペティエ王国の王太子、ジャンに倣って。
向こうは成功したというのに、僕はウィルフレッドと女共のせいで見事に失敗。こうして醜態を晒す羽目になったというわけだ。
だが……はは、ウィルフレッドの奴、本性を隠し切れていないじゃないか。口の端が吊り上がっているぞ。
ああ、そうだ。僕はこの男がどんな奴なのか、最初から分かっていたさ。
四人の王子の中で誰よりも野心が高く、僕達のことを誰よりも見下していたことを。
それだけじゃない。この男にとって女共も所詮は成り上がるための道具でしかなく、何の感情も持ち合わせていないこともな。
だからこそ、『穢れた王子』の周囲にいるこの連中を憐れに思う。
「兄上、最後に言い残すことはありますか?」
「ふざけるな! 『穢れた王子』の分際で、僕にこんな真似をしてただで済むと思うな!」
僕は醜悪に顔を歪め、ウィルフレッドに向けて叫ぶ。
ウィルフレッドも、周囲の女共も、僕のことをこれ以上ないほど蔑んだ視線を向けていた。
「兄上。この国のことは、俺に任せてください」
「ま、待て!? まだ話は……っ!」
ウィルフレッドが処刑の命を下すその瞬間まで、僕はみっともなく足掻く。
ああ……『無能の悪童王子』に相応しい、情けない最後じゃないか。
だけど、無念だ。
僕との婚約破棄を理由にシュヴァリエ公爵家を唆し、クーデターへと走らせたウィルフレッドに一矢報いることができないなんて。
その時。
「え……?」
僕の処刑を見物する民衆の中に、見覚えのある小さな少女がいた。
だけど、そんなのあり得ない。
だって……だって彼女は……アレクサンドラは、あの日僕の目の前で処刑されてしまったんだ。
だから、再び目にするはずがないんだ。
「ああ……そう、か……」
きっと彼女は、僕の無様な最期を見届けるために、天国からやって来たんだ。
国王の乱心によって『世界一の婚約者を連れてきた者を、次の王とする』などとふざけたことを言い出したから、政争に巻き込まれないようにと、婚約破棄なんて最も彼女を傷つける手段を選び、遠ざけた僕が死ぬ姿を見届けるために。
まったく……この世界に神がいるのなら、余計な真似をしてくれる。
なら見ているがいい。この……『無能の悪童王子』の、情けない姿を。
僕はこちらを見つめるアレクサンドラを一瞥し、口の端を持ち上げると。
――断頭台の刃が、僕の首を斬り落とした。
お読みいただき、ありがとうございました!
今回はamazon様の特典SSをweb版に改稿したものを投稿いたしました!
前編と合わせて、どうぞお楽しみくださいませ!
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