表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
328/333

本当のシナリオ【後編】

書籍がGA文庫様から絶賛発売中です!

また、新作を始めました!


「捨てられた回復魔法の愛し子と、裏切られた災厄の黒竜姫が出逢ったら」


絶対に面白いですので、広告下のリンクから是非ともお読みくださいませ!

「兄上! 本当にこのままでいいのですか!」


 王室主催のパーティーの場で、僕は実の兄であり第一王子のカーディスに詰め寄る。

 もちろん、最近のウィルフレッドの目に余る行動についてだ。


 あの男は、あろうことか王立学院では手当たり次第に言い寄り、何人もの女を侍らせていた。

 『世界一の婚約者』を見つけるためと言えば聞こえはいいが、あれではただ節操がないだけのだらしない男に過ぎない。愛人サマンサの血を引いているのも頷ける。


 女共も女共だ。そのような扱われ方をしているというのに、それがどうしたと言わんばかりに受け入れているじゃないか。

 そんな女が『世界一の婚約者』などあり得ないし、ウィルフレッドが王に相応しくないことも明らかだ。


 だというのに。


「まあそう言うな。ウィルフレッドも、大した男じゃないか」

「兄上……」


 そう……カーディス兄上は変わってしまった。

 国王陛下の『世界一の婚約者を連れてきた者を、次の王とする』の宣言前までは野心に満ち溢れ、あれほどラファエルと次期国王の座を争っていたというのに、今ではどこか諦めている節がある。


 ……いや、まるでウィルフレッドこそが、次の王に相応しいとでもいうかのように。


「とにかく、僕は認めません。あんな『(けが)れた王子』が、次の王であってたまるか」

「ふう……ハロルドもいい加減気づけ。お前では、ウィルフレッドの足元にも及ばないことを」

「…………………………」


 息を吐いてかぶりを振るカーディスの(そば)から、僕は無言で離れる。

 ああ、僕には才能がないさ。

 これまでどれだけ努力しようが、僕の中にある王族の証……【デハウバルズの紋章】は、一度たりとも発動してくれることがないのだから。


 それだけじゃない。他の祝福ギフトもまるで使うことができない。つまり僕は、平民にすらも劣っているということ。

 そんなことは、言われなくても分かっているんだよ。


 だがそれでも、僕はあの男だけは認めるわけにはいかない。

 絶対に、認めてたまるか……って。


「ハロルド殿下」


 声をかけてきたのは、アレクサンドラだった。


「なんだ。もう貴様とは婚約者でも何でもない。気安く話しかけてくるな」

「……それは存じております。ですが、せめて最後(・・)に一目だけでもと、我儘(わがまま)を押し通してお会いしにまいりました」

「はっ! 最後などと、大仰なことだな!」


 僕はわざとらしく両手を広げ、吐き捨てるように告げる。

 この女も、何が楽しくてこんな『無能の悪童王子』に話しかけてくるというんだ。


 婚約破棄をしたのだから、いい加減僕なんかを見限って、他の男でも探せばいいのに。


「まあいい。こっちは貴様のように暇じゃないんだ。僕に会えて満足したなら、さっさとどこにでも行け」

「……失礼いたします」


 アレクサンドラは優雅にカーテシーをすると、そのままどこかへ行ってしまった。


「……本当に、何なんだよ」


 うつむいたままで、青い瞳に涙なんか(たた)えて。


 僕みたいな男と別れられたんだから、もっと素直に喜べばいいのに。

 こんななりたくもない次の王を目指すために、婚約者を捨てるしかない『無能の悪童王子』なんか忘れて。


 だけど、僕はこの日のことを死ぬまで……いや、死んだ後も後悔する。

 何故なら――。


 ――アレクサンドラが、謀反の罪で処刑されてしまったから。


 ◇


「くそ! くそ! くそおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」


 王都のはずれにある、小さな処刑場。

 断頭台に固定された僕は、大声で叫んだ。


「ハロルド兄上、残念です。嫉妬に狂い、こんなことまでなさるなんて……」


 そう言ってかぶりを振るのは、ウィルフレッド。その周りには、聖女クリスティアをはじめ多くの女がいる。


 そう……僕はウィルフレッドを亡き者にするため、クーデターを起こした。

 カペティエ王国の王太子、ジャンに(なら)って。


 向こうは成功したというのに、僕はウィルフレッドと女共のせいで見事に失敗。こうして醜態を(さら)す羽目になったというわけだ。

 だが……はは、ウィルフレッドの奴、本性を隠し切れていないじゃないか。口の端が吊り上がっているぞ。


 ああ、そうだ。僕はこの男がどんな奴なのか、最初から分かっていたさ。

 四人の王子の中で誰よりも野心が高く、僕達のことを誰よりも見下していたことを。


 それだけじゃない。この男にとって女共も所詮は成り上がるための道具でしかなく、何の感情も持ち合わせていないこともな。

 だからこそ、『(けが)れた王子』の周囲にいるこの連中を憐れに思う。


「兄上、最後に言い残すことはありますか?」

「ふざけるな! 『(けが)れた王子』の分際で、僕にこんな真似をしてただで済むと思うな!」


 僕は醜悪に顔を歪め、ウィルフレッドに向けて叫ぶ。

 ウィルフレッドも、周囲の女共も、僕のことをこれ以上ないほど(さげす)んだ視線を向けていた。


「兄上。この国のことは、俺に任せてください」

「ま、待て!? まだ話は……っ!」


 ウィルフレッドが処刑の命を下すその瞬間まで、僕はみっともなく足掻く。

 ああ……『無能の悪童王子』に相応しい、情けない最後じゃないか。


 だけど、無念だ。

 僕との婚約破棄を理由にシュヴァリエ公爵家を(そそのか)し、クーデターへと走らせたウィルフレッドに一矢報いることができないなんて。


 その時。


「え……?」


 僕の処刑を見物する民衆の中に、見覚えのある小さな少女がいた。

 だけど、そんなのあり得ない(・・・・・)


 だって……だって彼女は……アレクサンドラは、あの日(・・・)僕の目の前で処刑されてしまったんだ。


 だから、再び目にするはずがないんだ。


「ああ……そう、か……」


 きっと彼女は、僕の無様な最期を見届けるために、天国からやって来たんだ。


 国王の乱心によって『世界一の婚約者を連れてきた者を、次の王とする』などとふざけたことを言い出したから、政争に巻き込まれないようにと、婚約破棄なんて最も彼女を傷つける手段を選び、遠ざけた僕が死ぬ姿を見届けるために。


 まったく……この世界に神がいるのなら、余計な真似をしてくれる。

 なら見ているがいい。この……『無能の悪童王子』の、情けない姿を。


 僕はこちらを見つめるアレクサンドラを一瞥(いちべつ)し、口の端を持ち上げると。


 ――断頭台の刃が、僕の首を斬り落とした。

お読みいただき、ありがとうございました!

今回はamazon様の特典SSをweb版に改稿したものを投稿いたしました!

前編と合わせて、どうぞお楽しみくださいませ!


また、新作を始めました!


「捨てられた回復魔法の愛し子と、裏切られた災厄の黒竜姫が出逢ったら」


ものすごく面白いですので、広告下のリンクからぜひぜひお読みくださいませ!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


いただいた評価は作品を書く最高のモチベーションです! 何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼8/19に書籍第1巻が発売します! よろしくお願いします!▼

【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ