本当のシナリオ【前編】
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「捨てられた回復魔法の愛し子と、裏切られた災厄の黒竜姫が出逢ったら」
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「アレクサンドラ! 貴様との婚約を破棄する!」
僕……ハロルド=ウェル=デハウバルズは、王立学院の教室内で高らかに宣言する。
もちろん、次の王になる条件……『世界一の婚約者を手に入れる』ためには、今の婚約者であるアレクサンドラが邪魔だからだ。
「……ハロルド殿下、せめて理由を教えてはくださいませんでしょうか」
アレクサンドラは表情も変えず、抑揚のない声で尋ねる。
この女はいつもそうだ。国王陛下の命により僕の婚約者となったが、何を考えているのか分からず、気づけば傍に控えている。
少なくとも僕の婚約者であることを良しとしているわけではないだろう。何せこの女、僕に対して一度も笑ってみせたことがないのだからな。
「フン! 語るまでもない! 貴様がこの僕の婚約者に相応しくないからだ!」
ああ、そうだ。僕の婚約者となるべき女は、こんな女であってたまるか。
だからこそ、アレクサンドラに傍にいられては目障りなんだよ。
「分かったらすぐに僕の前から消えろ!」
「……失礼いたします」
アレクサンドラは一礼すると、教室を無言で出て行く。
すると。
「兄上! あれでは義姉上が可哀想です!」
僕の前に現れたのは、腹違いの弟で第四王子のウィルフレッド。
国王陛下があのようなことを言わなければ、こんな『穢れた王子』に王位継承のチャンスなどなかったのに。
「貴様には関係ないだろう。それに、自分にもチャンスが巡ってからといって浮かれているみたいだが、オマエのような男が王になど相応しくない。王になるべきはカーディス兄上かこの僕、そのどちらかだ」
ウィルフレッドが調子に乗ったところで、『世界一の婚約者』どころか誰一人としてこんな男と婚約しようなどという女などいるはずがない。
だから、争う前からコイツは脱落……っ!?
「うふふ……ハロルド殿下は面白いことをおっしゃいますね」
「クリスティア……ッ」
現れたのは、バルティアン聖王国の聖女であるクリスティア。
国王陛下が提示した『世界一の婚約者』に最も近い女の一人だろう。
だというのに……どうしてこの女は、ウィルフレッドなんかにしなだれかかっているんだ?
「ウィルフレッド殿下は次の王に値する御方だと思いますが」
「……クリスティアはこの男が『穢れた王子』だということを忘れたのか? どう考えても、聖女のお前には相応しくない。むしろ僕の婚約者になるべきだろう」
「ご冗談を。どうしてこの私が『無能の悪童王子』なんかの婚約者にならなければならないのでしょうか」
「っ! き、貴様……!?」
「聖女様にこれ以上近づくのはおやめいただきたい」
侮辱の言葉を投げかけたクリスティアに詰め寄ろうとしたが、聖騎士のカルラが立ちはだかり、僕を突き押した。おかげで僕は、勢いよく後ろに倒れてしまう。
「うふふ……カルラに軽く押されただけでそのような姿を晒しているのですから、いい加減身の程を弁えたほうがよろしいかと」
くすくすと嗤いながらそう言うと、クリスティアはウィルフレッドの奴にしなだれかかる。
……ああ、そうか。最初からオマエは、ウィルフレッド側だったということか。
「フン! 貴様のような女、最初から『世界一の婚約者』に相応しくなかったのだ! こっちこそ清々する!」
僕は立ち上がると、吐き捨てるように負け惜しみを告げ、踵を返して逃げるように教室を出て行った。
◇
「くそ! どうしてあの連中は、この僕の良さが分からない!」
放課後の教室の隅で一人、僕は机を思いきり叩く。
国王陛下の『世界一の婚約者を連れてきた者を、次の王とする』との宣言以降、アレクサンドラとの婚約を破棄し、多くの女に声をかけている。
だというのに、ことごとくウィルフレッドが邪魔をし、僕から奪っていくのだ。
愛人サマンサの子供に過ぎない、『穢れた王子』のくせに。
「……まあいい。あんな奴を好きになる馬鹿女なんか、こっちから願い下げだ」
そうとも。僕にはもっと相応しい女がいる。それこそ、『世界一の婚約者』の女が。
僕は気を取り直して席を立つと、寄宿舎へと帰る……のだが。
「ふふ……あなたごときがこの私の視界に入るなんて、なんて身の程知らずなのかしら」
「な……っ」
嘲笑を浮かべ、廊下に倒れ込む女子生徒に冷たい視線を向けているのは、元婚約者のアレクサンドラ。
まあ、あの女も王族を除き、身分だけはこのデハウバルズ王国で最も高い公爵家の令嬢だからな。倒れている女子生徒も、それを分かっているから言い返せないようだ。
「まだ分からない? ウィルフレッド殿下のようなくだらない男に、羽虫のようにまとわりつくのはいいですが、目障りだから私の視界に入らないでほしいって言ってるのよ」
「う……」
女子生徒に顔を近づけ、口の端を吊り上げるアレクサンドラ。その姿は、まるで物語の悪女そのものだった。
やはり僕は、アレクサンドラと婚約破棄をして正解だった。あのような女、国王陛下が求める『世界一の婚約者』では絶対にない。
そう……僕の求める……いや、違う。王が求める『世界一の婚約者』とは違うんだ。
「……だから、これでいいんだ。」
僕はアレクサンドラに気づかないふりをしてそのまま通り過ぎ、今度こそ寄宿舎へと向かった。
お読みいただき、ありがとうございました!
今回はamazon様の特典SSをweb版に改稿したものを投稿いたしました!
後半につきましても追って投稿いたしますので、お楽しみに!
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