やっぱり僕は『エンハザ』が好きでした。
『無能の悪童王子は生き残りたい』第2巻発売まで、あと2日!
あとがきもぜひご覧くださいませ!!!
「はじめ!」
デスピナと謎の魔獣による試合が開始された。
「おで……おまえ……ころす……」
「…………………………」
対戦相手……謎の魔獣が片言で挑発するが、デスピナは無言のまま魔獣を見据える。
「それにしても……」
魔獣の大きさはゆうに二メートル以上、下手をすれば三メートルあるかもしれない。
手に持つ武器も、人間では到底扱えないような巨大な戦槌で、それを振るうことすらも厳しいだろう。
だというのに。
「ぐふ……ぐふふ……おまえころしたら、たべていいっていった。おで、たのしみ」
あの魔獣は戦槌を軽々と振り回し、一歩ずつゆっくりとデスピナへ近づいていった。
そして魔獣の言葉……きっとデスピナを食糧としか見ていないんだろうな。
「いいからさっさとかかってこい。さっきから口が臭いんだよ」
「ぐふ……おまえ、おでをばかにしたな。ばかにするやつがばかなんだど」
なるほど、あの魔獣の知能は保育園児並か。イベントボスやレイドボスならプレイヤーやヒロイン達と遜色ないことを考えると、きっとあの魔獣はモブ敵なんだろうな。
なら、イベントボスであるデスピナが負けるはずないか……って。
「っ!?」
「黙れと言っただろう」
目にも留まらぬ速さでデスピナが魔獣の顔を斬り刻んだ。
やはり人間ではないようで、赤ではなく紫色の鮮血を流す。
「次はその首だ」
地面を蹴り、デスピナが魔獣へと飛び込む……っ!?
「ぐふ」
「っ!?」
まるで待ち構えていたかのように、魔獣はデスピナへ戦槌を振り落とした。
かろうじて躱したみたいだが、さすがの彼女も予想外だったらしく、通常なら反撃に移るところただ距離を取ることしかできていない。
「キャス、あの魔獣の正体は分かるか?」
「んー……ごめん、あんなマナは初めてだから、ボクには分からないよ」
「そっか」
キャスでも判別できない魔獣か。
身体の大きさや怪力から察するに、オークの類のような気がするものの、全身が甲冑に覆われているせいで外見からは何も判別がつかない。
ただ、このままだとデスピナが敗北する結末も考慮に入れておいたほうがよさそうだ。
はは……『漆黒盾キャスパリーグ』なしで、真正面からあの威力の攻撃を受け止めることができるかな。ちょっと自信がないかも。
まあそれでも、デスピナよりは与しやすいけどな。
「ぐふ、ぐふ。やっぱりちいさくてよわい。おでのてきじゃない」
「……言うじゃないか」
戦槌を振り上げ、下品に嗤う魔獣。
デスピナは双剣を構えるが、魔獣の圧力で少しずつ後ずさっているように見えた。
スピードは間違いなくデスピナのほうが上。
でも魔獣は彼女の動きについていけている。下手に手出しをすれば待ち構えた戦槌の餌食だ。
さあ、どうする?
「ぐふふふふふふふふふふふふふふふふふッッッ!」
「っ!」
様子見は終わったとばかりに、魔獣が突進する。
デスピナが素早い動きで距離を取るが、魔獣は遅いながらも執拗に追いかけてゆく。
しかもあの動き……デスピナを誘導しているのか?
その証拠に、徐々にではあるが彼女が壁に追い詰められていっているのが分かる。
「ぐふ、もうにげられないよ」
「……そのようだな」
とうとう壁を背にし、デスピナは魔獣を見据える。
ここまで距離を詰められては、自慢のスピードを活かすことも難しいだろう。
一方で、兜によって表情こそ見えないものの、間違いなく愉悦に浸っているであろう魔獣。あの下卑た笑い声が耳障りで仕方がない。
「ハルはひょっとして、あの女のほうを応援しているの?」
「え?」
キャスにそんな質問をされてしまい、僕は思わず呆けた声を漏らした。
そういえば、気づけば僕はデスピナ寄りの思考になっていたなあ。
「……まあ、僕としては防ぎやすいほうが勝ってくれたほうがいいからな」
「そっか」
などと答えてみたものの、闘うなら魔獣のほうが楽なのは分かっている。
僕的にはデスピナのスピードのほうが厄介極まりない。
だからこの展開は、僕にとって好都合なんだけどなあ……。
なのに。
「どうしたデスピナ! ここで終わるつもりか!」
気づけば僕は、席を立って大声で叫んでいた。
ここで生き残るためには、デスピナを相手にしないほうが賢い選択だというのに。
でも……どうせ闘うなら僕は、前世で大好きだった『エンゲージ・ハザード』のボスと闘いたいのも事実だ。
あんなどこの馬の骨とも分からない魔獣なんかに、『エンハザ』のイベントボスがやられるなんて許せないんだよ。
「そうだそうだ! 俺達はお前に賭けてんだぜ!」
「おうよ! いつもみたいに軽く倒しちまえ!」
僕の檄を皮切りに、観客達が次々と声援を送る。
敵に塩を送る形になってしまったものの、それでも、彼女に勝利してほしい。
すると。
「フン……言ってくれるッッッ!」
「っ!?」
デスピナが鼻で笑ったかと思うと、次の瞬間には魔獣の肩へと駆け上がり、剣を甲冑の隙間に突き立てていた。
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