三つ首のレイドボスが召喚されました。
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邪悪龍アジ・ダハーカは、鋼鉄よりも堅い鱗で覆われた巨大な胴体に三つの首を持つ、『エンゲージ・ハザード』でも指折りの強さを誇るレイドボスだ。
十指に入る防御力の高さもさることながら、特筆すべきはその再生能力。何せ、自動回復スキルを有しているため、戦闘の長期化は免れない。
攻撃力に関しても、三つの首により一ターンで三回の攻撃が可能であり、それぞれの首ごとに属性が異なる。つまり、この一つの身体に三つの属性を有しているのだ。
さらには物理攻撃主体かと思いきや、真に得意なのは魔法攻撃。最強スキルの【トライカノーネ】は、あの魔獣フェアゲルトゥングスヴァッフェの【多薬室砲】にこそ劣るものの、それでも火力はすさまじい。
何より、【多薬室砲】とは違い、【トライカノーネ】は連発できるのだから。
「ハル様、いかがなさいますか……?」
隣に来たサンドラが『バルムンク』を構え尋ねる。
そうだな……どうしてルシオがアジ・ダハーカを召喚できたのか気になるところだが、いずれにせよ僕達がやるべきことは一つだ。
「リリアナ! 悪いが僕の部屋で待機しているライラを至急ここへ連れて……」
「それには及びません、マスター」
「ライラ!?」
部屋の扉を開け放ち、現れたのは魔導人形ライラ。
だけど、まだ僕は待機解除をしていないのに、どうして……。
「上空の魔法陣を見て緊急事態であると判断し、危機回避プログラムを発動いたしました」
「そ、そう……」
なるほど。主に危険が迫っていると判断した場合、主の命令よりも優先されるのか。一つ勉強になった。
でも。
「そういうことなら話は早い。ライラは大罪人ルシオ並びにフロレンシアを拘束し、アジ・ダハーカとの戦いの邪魔をさせるな。……場合によっては、始末して構わない」
「かしこまりました」
さて……あの二人はこれでいいとして、どうやってこのレイドボスを倒そうか。
アジ・ダハーカにはこれといった弱点がなく、攻略にはプレイヤー達による物量で強引に押し切るっていうのが、最も手っ取り早い倒し方だったからなあ。
まあでも。
「やり方なんていくらでもあるけどね」
そう呟くと、僕は口の端を持ち上げた。
さすがに『エンハザセカンド』となれば分からないことだらけだが、『エンハザ』のレイドボスということであれば何ということはない。
僕は……立花晴は、誰よりも『エンハザ』を知り尽くしているプレイヤーだったのだから。
「みんな! 左の首は雷属性、中央は水属性、右は風属性だ! それぞれの属性の魔法攻撃を繰り出してくるから、どの首が攻撃するかで対処できる!」
「はい!」
「うふふ……そういうことなら、守りはそれほど難しくないですね。【プロテクション】」
クリスティアが僕達の前に三枚の光の壁を展開する。
きっとそれぞれが、アジ・ダハーカの首の属性に対応したものになっているのだろう。
「サンドラは中央の首! 地属性のカルラ殿は左! リリアナは右の首を狙え! 君達が攻撃の要だ!」
「ふふ……うふふふふ……! お任せください! 頭が三本生えているだけの蛇など、剣の錆にしてやります!」
「ハル殿! お任せください!」
「よおおおおし! ハルさん、お肉期待してますからね!」
三人は一気に飛び出し、二十メートルはあろうかというアジ・ダハーカへと迫る。
アジ・ダハーカは応戦し魔法を放つが、サンドラ達はそれをかいくぐり、巨体を駆け上がって丸太よりも太い首に剣を、拳を突き立てた。
「「「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!?」」」
同時に攻撃を受け、三つの首が悲鳴を上げる。
「まだまだ行きますよおおおお! おりゃああああああああああッッッ!」
「ゴアッ!? ゴゴ、グ、グゲ、オアアアアアアアアアッッッ!?」
すさまじいリリアナのラッシュ攻撃に、鋼鉄の鱗はひしゃげ、剥がれ、むき出しとなった柔肌に容赦なく拳が撃ち込まれる。
瞬く間にアジ・ダハーカの右の首は、剪定が終わった木の枝のようにおかしな方向にへし折られていた。
「はあああああああああああああッッッ! 【四天滅裂】ッッッ!」
高速移動による残像で四人に分裂したカルラが、左に首の脳天に強烈な一撃を叩き込む。
アジ・ダハーカの頭がまるで車に踏まれた蛙のようにひしゃげ、だらしなく胴体に垂れ下がった。
「ふふ……さあ、爆ぜなさい」
「ッッッッッッッッッッッッッッ!?」
サンドラがずぐり、と無造作に中央の首に『バルムンク』を突き立てると、その言葉どおり爆ぜ、アジ・ダハーカは悲鳴を上げることすら許される沈黙する。
でも……これだけで倒したことにはならない。
「っ! みんな! 僕の後ろに!」
「はい!」
「うむ!」
「わっかりました!」
三人はアジ・ダハーカから一気に飛び退き、僕の後ろへと戻る。
その間にも、残された胴体から三つの門が展開し、こちらへと照準を合わせた。
これを凌げば、僕達の勝ちだ。
――――――――――――――ッッッッッ!
三つの門から放たれた、三つの閃光。
これこそが、アジ・ダハーカの最強スキル、【トライカノーネ】。
「ぐ……ぐぎ……っ!」
『漆黒盾キャスパリーグ』で受け止めた僕だが、【トライカノーネ】の威力によってじり、じり、と押される。
でも僕は、あの【多薬室砲】を防ぎ、サンドラの攻撃ですら防いでみせたんだ。
たかがレイドボスの攻撃くらい、防ぎ切ってみせる。
だって……僕の後ろには、たくさんの『大切なもの』がいるのだから。
だから。
「あああああああああああああああああああああッッッ!」
アジ・ダハーカの【トライカノーネ】を、上空へと弾き飛ばした。
はは、ざまあみろ。
さあ……仕上げだ。
「……キャス。あの魔獣の命、お前の爪で奪ってやれ」
「うん! いくよ……【スナッチ】ッッッ!」
僕の膨大なSPを受けて放たれた巨大な漆黒の爪が、残されたアジ・ダハーカの胴体を抉り取る。
その鱗も、皮膚も、内臓も、命すらも全て。
「オ……オ……ッ」
悲鳴にならない声を上げ地面に崩れ落ちると、アジ・ダハーカは完全に沈黙した。
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