イベントボスを追い詰めました。
『無能の悪童王子は生き残りたい』は本日発売!
どうぞよろしくお願いいたします。
あとがきもぜひご覧くださいませ!!!
「モニカ、ここで……」
「はい、間違いありません」
寮の三階の一番奥にある部屋の扉の前で、モニカが頷く。
この中に、ルシオがいるみたいだ。
「じゃあ、僕が先頭で中に入るから、モニカとフロレンシアさんはその後に続いて」
「はい」
「分かりましたのです」
ドアノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開ける。
暗闇の部屋の中、銀色に輝く双眸だけが僕達……いや、フロレンシアを捉えていた。
「ルシオ……ッ」
フロレンシアが一歩前に出て、ルシオの名を呼ぶ。
すると。
「っ!? させるかあッッッ!」
『漆黒盾キャスパリーグ』を構え、暗闇から放たれた何かを防いだ。
これは……。
「チッ! この【アシッドミューカス】を被れば、ただれて醜い姿になっただろうに」
舌打ちをして立ち上がると、ルシオは不遜にそんなことを告げた。
とても好きだった女性にするような行為じゃないが、前世の世界でも逆恨みして元恋人の顔に硫酸をかける事件とかあったし、そういうことをする奴というのは一定数いるってことか。
もちろん、絶対に許せないが。
「フラれた腹いせにこの王国までやって来て、していることといえばこんな真似か。イスタニア王国っていうのは、こんな無能の屑にすら頼らないといけないほど、人材難なんだな」
「今の言葉、撤回しろ。俺は無能の屑なんかじゃない」
「いや、無能で屑だろ。フロレンシアの足元にも及ばず、こそこそと隠れて呪いをかけることしかできない。そして、これからオマエは僕達に倒されて、無様な姿を晒すんだから」
「ほざけ! 『無能の悪童王子』ごときが!」
「ああ、ほざくさ。僕はオマエと違って、最愛の女性と結ばれたからな」
僕はモニカにも負けないようなドヤ顔で、ルシオを見下す。
前世の立花晴だったらいい勝負だったかもしれないが、今の僕はサンドラと結婚したハロルド。つまりリア充だ。非リアのルシオでは、天と地ほどの差があるんだよ。
「分かっただろう? 僕はオマエにはないものを持っている。一方で、オマエはどうだ?」
「うぐ……っ」
本人も分かっているんだろう。僕に煽られて、言葉を詰まらせることしかできない。
このまま心をポッキリと折ってやりたいところだが、そう上手くはいかないだろう。
何せこの男、わざわざデハウバルズ王国に出張ってまでフロレンシアにちょっかいをかけに来るんだからな。
「まあ、これ以上僕のリア充っぷりを語っても、オマエがみじめになるだけか。それで、どうする? この距離ならオマエが呪いを発動している間に、そのまま倒すことなんて造作もないんだが」
「…………………………」
テミスに聞いたが、邪属性特有の呪い系のスキルは発動までに最低三ターンを要する。それまで守ってくれる前衛や回復役がいるなら話は別だが、少なくともこの部屋にはコイツしかいない。
なら、発動前にモニカの刃の餌食になるのは目に見えている。
「もう大人しく、僕達に従えよ。そうすれば強制送還程度で許してやる」
なんて言ってみるが、その程度で許すものか。
最低でも二度と邪属性スキルが発動できなくしてやる。そうじゃないと僕の『大切なもの』が傷つけられないか不安で、枕を高くして眠れないんだよ。
その方法なら、テミスから聞き出しているからな。
「さあ、どうする?」
「…………………………」
僕が一歩前に出ると、ルシオはそれに合わせて一歩下がる。
だが、いつまでもそんなことをしていたら。
「……っ」
ほらな。部屋の中である以上、すぐに行き止まりになる。
こうなると僕に従うか、このまま僕達と戦うことを選ぶか、あるいは窓の外から逃げるかのどれかだ。
ただし、三つ目の選択肢を選んだ場合、三階のこの部屋から飛び降りて怪我をせずに済むだけの技量があることが前提だけど。
すると。
「……ああ、そうだな」
「ルシオ?」
「残念だが仕切り直しだ。だが今度は、貴様の思いどおりになると思うなよ」
そう言うと、ルシオは窓に手をかけた。どうやらここから飛び降りるつもりらしい。
つまり、それだけのことができる強さは持ち合わせているということか。
だが。
「そう上手くいくかな?」
「っ!?」
窓から下を見つめたルシオが息を呑む。
まあ、そうだよな。
だって。
「ふふ……さあ、早く飛び降りてごらんなさい。その時が、あなたの命が終わる時です」
夜空に浮かぶ三日月のように口の端を吊り上げるサンドラと、凛々しい表情で剣を構えるカルラ、それにクリスティアとリゼ、リリアナが待ち構えているのだから。
「これで分かっただろう。オマエに、もう逃げ場はないんだよ」
「く……っ」
ようやく自分の置かれている立場を理解したのか、ルシオは忌々しげに僕を睨み、歯噛みする。
そんな顔をされたところで、結末はもう決まっているんだけどな。
「とにかく、今のオマエの反応で分かったよ。打開策がないのなら、大人しく……っ!?」
突然、僕の身体が鉛のように重くなり、そのまま床に倒れてしまった。
まさか……ルシオの呪いなのか……っ!?
かろうじて首を動かして見上げるが、むしろルシオも驚いた様子で僕……ではなく、その後ろを見つめている。
「……ごめんなさいなのです。うちはやっぱり、ルシオを守りたいのです……っ」
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