背中の烙印
番外編2話目です!
■シグルス=オブ=シュヴァリエ視点
「囲め囲め! 絶対に逃がすんじゃないぞ!」
ファフニールと出逢ってから一年が経ち、俺は二万の兵を引き連れてノルズ帝国の城の一つ、“ダグラム”城を攻略していた。
デハウバルズ王国が帝国に反旗を翻してからわずか二年で、既にブリント島の南半分を制圧済み。今も破竹の勢いで北へと進軍している。
そんな中。
「えへへ! わたしの剣を止められるわけないじゃない!」
「ぐああっ!?」
ダグラム城に一番に乗り込んだのは、今や俺の右腕となったあの日の少女……ファフニールだった。
「ははっ、これは俺も負けていられないな!」
立ち塞がる兵士をなぎ倒した俺はファフニールが開けてくれた城門を突き抜け、中にいる兵士を次々と倒していく。
「シグ!」
「ファル!」
城壁から馬に飛び乗り駆けつけてきたファルと、ガツン、とガントレットを合わせる。
彼女とは相棒になった半年前から、お互い愛称で呼び合っていた。
「どう? わたし、シグの役に立った?」
「もちろんだ。相変わらずお前はすごい奴だ」
「あ……えへへ……」
俺はファルのプラチナブロンドの髪を少し乱暴に撫でると、彼女が嬉しそうにはにかむ。
初めての出逢いで頭を撫でてからすっかり気に入った彼女は、事あるごとにこうやっておねだりをしてくるようになった。
まあ、俺も俺でそんなファルを見るのが好きで、こうして頭を撫でるのだが。
そして。
「ダグラム城は、このシグルス=オブ=シュヴァリエが制したぞ!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」」」」」
三日間の戦闘の末、とうとうノルズ帝国の要衝の一つであるダグラズ城の攻略に成功した。
ここから先は、とんとん拍子で侵略が進むことだろう。
「シグ、やったね!」
「ああ。このまま一気にノルズの連中を追い詰めて、俺達デハウバルズがブリント島の覇者になってやる。そして……お前を酷い目に遭わせたアイツ等に、報いを受けさせるさ」
「うん……」
ファルが真紅の瞳を潤ませ、俺の胸に頬を寄せる。
俺もそんな彼女の小さな身体を抱き寄せ、たなびく旗に勝利を誓った。
◇
「思えば、不思議な奴だな……」
「すう……すう……」
腕の中ですやすやと寝息を立てるファルを見つめ、俺はポツリ、と呟く。
出逢って最初の頃は警戒されていたが、一か月も経てばすっかり懐かれてしまった。
危ないからと従軍を断ったりもしたんだが、残念ながらファルは聞く耳を持たない。
それどころか、戦で役に立つからと剣を取り、兵士達をあっという間に叩き伏せる始末。
実力まで示されてしまい、とうとう断ることができなくなった俺は、彼女を連れていくことにしたわけだ。
ただ。
「……まさかこの俺が、ファルにここまで惚れてしまうとはなあ……」
ファルのプラチナブロンドの髪を指ですき、俺は苦笑する。
昔から剣術ばかり明け暮れ、こういった色恋沙汰とは無縁だと思っていただけに、不思議だと思いつつも悪くない自分がいた。
(ノルズの連中を倒してしまえば、少しはこいつの傷も癒えるんだろうか……)
ファルの背中には、ノルズ帝国によってつけられたと思われる烙印がある。
おそらく、奴隷である彼女が所有物であることを示すために。
俺はファルの背中を見るたびに、怒りでどうにかなってしまいそうになる。
その怒りを、戦でノルズの連中に叩きつけてやるのだ。
「だがそれも、あと少しだ」
デハウバルズ軍はダグラム城を最前線の拠点にし、次はいよいよノルズ帝国最大の要塞、“スタングラッド”城の攻略に取りかかる。
そう……次の戦に勝利すれば、デハウバルズ王国によるブリント島統一を果たすことができるのだ。
その時に俺は、ブリント島統一の功労者としての権限を一つ、サウェリンから貰うつもりだ。
――ファルを苦しめたノルズの連中に、一人残らず同じように烙印を押してやる権限を。
「んう……」
どうやら目を覚ましたらしいファルが目をこすり、俺の顔を覗き込む。
やはり俺の相棒は……最愛の女性は、どうしようもなく可愛い。
「えへへ……目を開けたら大好きな人の顔があるって、幸せだね」
「はは、そうか」
「でも、恥ずかしいからあまりわたしの顔は見ないで」
「断る。俺だって、大好きな女性の顔をいつまでも見ていたいからな」
「もう……」
ファルは口を尖らせるが、すぐに顔を綻ばせて俺の胸に頬をすり寄せる。
俺はそんな愛しい彼女を抱きしめると、貪るように求めた。
お読みいただき、ありがとうございました!
番外編第3話は本日夜投稿しますので、お楽しみに!
また、新作スタートです!
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