僕のスキルは、まがい物の神を抹消するための能力でした。
「……ソレハ、『属性変換装置』?」
「正解」
そう答えると、僕は口の端を吊り上げて魔道具のスイッチを押した。
その瞬間、僕の身体は光に包まれる。
「っ!? ハル!?」
「キャス、みんな、心配いらない」
念のためマクラーレンにはスペアをいくつか作らせ、あらかじめテストを行っているから問題はないことは分かっている。
そう……これで僕は元の闇属性から、デハウバルズの王族らしく光属性へと変わった。
ただ残念なことにこの魔道具、一度きりしか使用できないんだよね。
なので役目を終えた『属性変換装置』は、跡形もなく消滅してしまったよ。
「ふう……」
「……理解不能。属性ヲ変更シタ意味ガ分カラナイ」
表情こそ変えないものの、テミスは訝しげに僕を見る。
コイツ、本当に理解していないのかなあ。
まあいいや。
なら、その身をもって分からせてやる。
僕は手をかざし、テミスへと向けると。
「跪け」
「ッ!?」
「「「「「っ!?」」」」」
そう告げた瞬間、テミスが……いや、ここにいる全ての人間が、一斉に跪いた。
「理解不能。理解不能。管理者権限ニヨリ、キャラクター『ハロルド』ノ命令ヲ無視……ッ!?」
「できるわけないだろう」
テミスは立ち上がろうとしているみたいだけど、それは絶対に不可能だ。
だって……これは、そういうものなのだから。
「ハ、ハロルド、これはどういうことだ……っ!?」
「そ、そうよ! あの女はともかく、どうして私達まで……っ」
「あ、あははー……」
意味が分からず跪かされたことで、みんなからジト目を向けられ、僕は思わず苦笑いを浮かべた。
あー……なるほど、ちゃんと指定しないと全てに影響が出てしまうんだね。理解したよ。
「前言撤回。テミスのみ跪け」
「っ!? う、動ける……!」
言い直したことで、テミスを除いた全員が拘束から外れ、自由に動けるようになる。
こんなことなら『属性変換装置』のテストだけじゃなくて、スキルの検証もしておくべきだった。
「それで、これはどういうことか説明していただけますか?」
クリスティアが微笑みを湛えて詰め寄る。
もちろん、その瞳は一切笑っていないよ。むしろ怒っていると言っても過言ではないくらい。
「……これは僕の能力の一つ、【支配する者】というんだ」
『エンゲージ・ハザード』では、登場キャラに八つのスキルが標準装備されている。
もちろんハロルドにも同様にスキルが装備されていたわけだけど、ご存知のとおりハロルドは闇属性のキャラであり、装備スキルは全て光属性。これまでは使用することは不可能だった。
でも、魔塔で見つけたこの魔道具によって僕は光属性キャラへと変わり、初期設定のスキルを使用することができるようになったんだ。
そしてこの【支配する者】のスキル効果は、『神に創られし者を従える』というもの。
ここまで言えば、もう分かるよね?
そう……神とは『エンハザ』を生み出した制作スタッフのことであり、彼等によって生み出された者は僕達に他ならない。
その対象には、AIであるテミスも含まれる。
……いや、制作スタッフはテミスを制御することを想定して、このスキルを用意しておいたんだろう。
つまりハロルド=ウェル=デハウバルズという噛ませ犬キャラは、将来的にAIが暴走してしまった場合の対策として存在しているんだ。
いやあ……公式の攻略サイトを見た時は意味が分からなかったけど、実際に使用してみてようやく理解したよ。
この僕が、ウイルスと化したテミスに対する、ワクチンの役割なのだと。
「理解不能……理解不能……理解不能……」
「理解はしなくていい。それよりテミス、今すぐサンドラとモニカを解放し、ユリを含めた三人の意識を元に戻せ」
「理解……不能……ッ」
テミスは必死に抵抗を試みているようだけど、僕の命令に逆らうことはできない。
サンドラとモニカの拘束が解かれると、三人は僕の傍へ転移した。
「ハル……様……」
「ハロルド殿下……」
「よかった……よかった……っ」
ゆっくりと目を開けたサンドラとモニカを、僕は思いきり抱き締める。
もう絶対に、離したりするもんか。
それと同時に。
「テミス……よくも僕の『大切なもの』をこんな目に遭わせてくれたな」
「ッ!?」
僕に睨まれ、テミスが目を見開いた。
その様子から察するに、僕のスキルについて思い出すと同時に、これから自分が何をされるのか理解したんだろう。
もちろん、絶対に許しはしない。
「キャラクター『ハロルド』、取引ヲイタシマショウ。今後私ハ、シナリオドオリニ舞台ヲ降リテクレルノデアレバ、ソノ後ニツイテハ干渉シマセン。必ズ約束シマス。モチロン、キャラクター『アレクサンドラ』ヤMOBキャラクター『モニカ』、レイドボス『キャスパリーグ』にも」
へえ、AI風情が必死に考えたじゃないか。
確かに僕はこの『エンハザ』の世界から早々に退場することで、バッドエンドを回避することを目指していたよ。その考えは今も変わらない。
でもさ、今さらもう遅いよね。
あの世ってものがAIに存在するのか知らないけど、地獄に堕ちろ。
「食らえ、【排除する者】」
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