暗闇に落とされました。
「ハル様。エイバル王は打倒し、これで目的を果たしました。あとは、私達がこの国を去るだけです」
今もなおエイバル王の上半身が炎に包まれる中、サンドラが蕩けるような笑顔でそう告げる。
真紅の瞳と相まって、僕には冷酷な彼女がとても魅力的に見えた。
だけど。
「まだだよ。僕達の本当の敵は別にいる」
「本当の敵?」
「うん。ユリ」
僕は隣のユリに目配せして、別空間でのことをもう一度みんなに説明してもらう。
まさか本当に神と呼ばれる存在がいたことに、サンドラ達は驚いた様子ではあったけど、すぐに平静を取り戻し。
「……では今度は、その神を名乗る愚か者の首を刈ればいいのですね」
「ふふ……ハル様に刃を向ける不届き者が、神であるはずがありませんから」
サンドラとモニカの言葉に頼もしいことこの上ないけど、この二人なら本当に神でも悪魔でも屠ってしまいそうだよ。
まあ、まがい物の神を消すのは、この僕の役割なんだけどね。
「それでユリ、“ナカノヒト”はどこにいるんだ?」
「この王宮の地下深くにある、奈落の底だよ」
「あー……」
つまり暴君竜ア=ドライクと殲滅竜グヴィバーが眠っていたあの穴の底が、“ナカノヒト”の棲み処なわけだ。制作スタッフから結構酷い扱いを受けているんだなあ。どうでもいいけど。
「じゃあ、僕達をそこに案内してくれ」
「ソノヒツヨウハナイ」
「「「「「っ!?」」」」」
突然ユリの声色が機械音声になり、謁見の間の床が……いや、王宮全体が消失して僕達は奈落の底へと誘われ、そして。
――僕達は、意識を失った。
◇
――ポチャン。
「んう……」
額に冷たいものを感じ、僕はゆっくりと目を覚ます。
「ここは……?」
周囲は真っ暗で、何も見えない。
だけど、王宮が消失した時のユリの言葉から察するに、ここは奈落の底で間違いないだろう……って!?
「ハル!」
「わっ!?」
暗闇の中に光る黄金の双眸が、僕の胸に勢いよく飛び込んできた。
「キャス! 無事だったか!」
「うん! ハルの胸の中でずっとしがみついていたから、大丈夫だったよ! だけど……」
「どうした?」
「その……他のみんなとは、はぐれちゃった……」
キャスの声のトーンが下がる。
なるほど……穴に落ちた時に、みんなとは離れ離れになったか。
「となると、まずはサンドラ達と合流しよう」
「う、うん」
ということで、僕達は暗闇の中を歩く。
だけど僕の目では全然見えないため、夜目が利くキャスに指示してもらった。
「あ、そこ、足元気をつけて」
「う、うん」
何というか、さっきからパキパキと枝が折れる感触が足の裏に感じるけど、気にしないようにしよう。多分アレだと思うし。
前が見えないからどれくらい歩いたのかは分からないけど、体感で結構な距離を進んだんじゃないだろうか。
というか、キャスが一緒で本当によかったよ。
すると。
「あ! あれ!」
「うん!」
暗闇の中に灯る炎。
僕はキャスを肩に乗せ、そこまで一気に駆けた。
「! ハル!」
「リゼ!?」
なんと、そこにいたのは王宮の前で魔獣と戦っていたはずのリゼだった。
「どうしてここに!?」
「私達も魔獣を倒した後、ハル達の後を追ったんだけど、その時に急に王宮が消滅してしまって……」
「ああー……」
なるほど、そういうことだったのか。
「それで、怪我はない?」
「ええ。このとおり無事よ」
そう言うと、リゼはスカートの端をつまみ、くるり、と回って見せた。
「よかった……でも、さすがはリゼ達だね。あんなすごい魔獣を倒してしまうんだから」
「と、当然よ! ただ大きいだけの蛇に、この私が負けるはずないじゃない!」
いきなり褒めたからだろうか。炎に照らされているということを加味しても、リゼの頬は間違いなく真っ赤に染まっていた。
相変わらず分かりやすいヒロインだなあ。嫌いじゃないけど。むしろ大好物だけど。
その時。
「おおーい! 誰かいませんかあああああ!」
暗闇の向こうから聞こえる、女性の叫ぶ声。
これは……リリアナか?
「彼女、この炎に気づいていないのかしら……」
「ひょっとしたら障害物か何かで、見えていないのかもしれない。行ってみよう」
「ええ!」
「うん!」
僕達は声のするほうへと向かうと、目の前にそびえ立つ壁が立ち塞がった。
声は、この壁の向こうから聞こえてくる。
「これは迂回するしかないかなあ……」
「そうね」
壁を見上げ呟くと、リゼが頷いた。
「でもこの壁、ずっと向こうまで続いているよ?」
「「そうなの?」」
「うん」
などと困り果てていると。
――ドオオオオオオオオオオオンッッッ!
「な、なんだ!?」
とてつもなく大きな衝撃音が暗闇に響き、僕達は思わず声を上げた。
「もう一丁! おりゃあああああああああああああッッッ!」
――ドオオオオオオオオオオオンッッッ!
……これは、リリアナの仕業みたいだ。
しかもどうやら、この壁を破壊してこちら側に来るつもりみたい。滅茶苦茶だよ。
「これで……どうだあああああああああああああああッッッ!」
――ドオオオオオオオオオオオンッッッ!
三度目の衝撃音とともに、巨大な壁が貫通する。
その勢いのままリリアナが飛び出してきて、彼女は躓いて転んでしまった。
「いてて……あ! ハルさん!」
「あ、あははー……」
屈託のない笑顔を見せるリリアナに、僕は思わず苦笑したよ。
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