エイバル王が最後を迎えました。
「ハル様。そちらの方が何者なのか、説明いただけますでしょうか」
エイバル王の胴体を真っ二つにした直後、サンドラが僕の前に来て笑顔で詰め寄る。
それはもう、ハイライトの消えた血塗られた赤の瞳で僕を見つめて。
だけど、どう説明すればいいんだろう。
袂を分かった時にサンドラ達の記憶からユリの存在は消されてしまっているし、一から説明するにしてもどう話せばいいか分からないよ。困った。
「お嬢様、ご心配には及びません。こちらの御方は男性ですので」
おっと、サンドラが不機嫌だったのは、ユリを不審に思っていたのではなくて女の子だと思っていたからなのか。
確かにユリが男だって知っていてもなお、ロイドが惚れてしまうくらい美人だからなあ。勘違いしてしまうのも無理はない。
「そ、そうなのですか……?」
「うん。彼……ユリは男だよ」
上目遣いでおずおずと尋ねるサンドラに、僕ははっきりと答えた。
サンドラが嫉妬する必要はないということをアピールするために。
「そうでしたか……では、ハル様のご友人ということで……」
「違うよ。私とハル君は、運命の人同士なんだから。ね!」
いやいや、『ね!』じゃないよ。というか腕を絡めてくるの、やめてくれる?
「モニカ! これはどういうことですか!」
「……こちらの御方が男性であることは間違いないのですが、まさかハロルド殿下にそのようなご趣味があるとは思いもよりませんでした」
「そんな趣味はないよ」
モニカがハンカチで目頭を押さえ、よよよ、と白々しい演技をしたので、僕は冷静に否定をしてやったよ。僕はいたってノーマルだ。
「むう……別に男の子とか女の子とか、そんなの関係ないよね」
「関係あるに決まってるだろ」
頬を膨らませるユリに、僕は冷静にツッコミを入れる。
いつまでもそんな冗談に付き合っているような状況じゃないんだから、そろそろ真面目に……冗談だよね?
「うわー……ハルさん、とうとう男の人まで守備範囲を広げるんですね……」
「リリアナ、勘違いはよくない」
そろそろ否定するのに疲れてきたよ。
どうして僕が、そんな目で見られなきゃいけないんだ……って。
「……可愛い」
ロイドがまたユリに一目惚れしちゃったよ。まあ分かってたけど。
その時
「う、うう……」
胴体を真っ二つにされたエイバル王が、呻き声を上げる。
いけない、すっかり忘れていた。
「しぶといね。まだ生きていたなんて」
エイバル王の前でしゃがみ込み、僕は盛大に皮肉を言ってやった。
とはいえもう虫の息であり、ほんの数秒、数十秒で死んでしまうだろう。
「こ、この……『無能の悪童王子』の分際で……っ」
「まだそんなことを言ってるの? 馬鹿だなあ」
もはや国王相手に礼儀も何もなく、僕はエイバル王に侮蔑の視線を送る。
とはいえ、『エンハザ』の主要キャラとしてその役割を全うしようとしたことに関しては、まあ……ごめん、何とも思わないや。
それどころか、強引に僕とサンドラを婚約破棄させようとしたり、シュヴァリエ家を滅ぼそうとしたことは絶対に許すつもりはないから。あの世で後悔しろ。
「ユリシーズ……貴様、よくも余と神を裏切った、な……!」
「何とでも言ってよ。僕はただ、アイツの指示に従っただけで、最初からエイバル君の仲間になった覚えはない。それどころか、馬鹿で無能な君には辟易していたよ」
「この……っ!」
それにしてもエイバル王、なかなか死なないね。しぶとい。
しかも怒りで顔を真っ赤にして、とても胴体を真っ二つにされているとは思えない……って!?
「みんな! 離れて!」
「「「「「っ!?」」」」」
僕の言葉で、エイバル王から一斉に距離を取る。
だけど、この胴体の切り口から蠢く触手のようなものは一体……。
「うええ……あのうねうねしたやつ、下半身のほうからも出ていますよー……」
「何だって!?」
リリアナの言葉どおり、下半身の切り口からも触手は伸びており、それは切り離された上半身へ向かっていた。
まさか……このまま繋がるつもり、なのか……?
でも。
――ぐちゃ。
「ふふ……まさか、それを私達が見過ごすとでも思っているのでしょうか」
「本当に馬鹿ですね」
サンドラが『バルムンク』で下半身を叩き潰し、嘲笑を浮かべる。
それと同時に、モニカは無表情でエイバル王の上半身に火をかけた。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!?」
「バケモノの断末魔に相応しいですね」
確かに触手まで生やしたのだから、もうとっくに人間をやめていると言っても過言ではないけど……二人とも、容赦ないなあ。
「エイバル君。これで君は、望んでいた神になることができないね」
「ユリ?」
「あは♪ この男、あろうことか神になりたかったんだよ。だから“ナカノヒト”に与して、『世界一の婚約者を連れてきた者を、次の王とする』なんて宣言したんだから」
「へえ……」
なるほど、エイバル王の目的は神になることだったのか。
権力者の行きつく先として、それを望むことは不思議じゃない。前世でも歴史上の王は神になることを望み、自らを神と称した者もいたから。
ただ……エイバル王の求めた神って、ただのAIに過ぎないんだよね。
それって人間にこき使われたいって解釈することもできるけど。
「いずれにせよ、僕達が後世まで語り継いでやるよ。デハウバルズ王国建国以来の愚王として」
「ぎ……ぎぎ……」
燃え盛る炎の中で断末魔を上げるエイバル王に、僕は冷たく言い放った。
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