大切な親友を救うって決めました。
「それで……その、神の名前は……?」
「あは♪ “ナカノヒト”って言うんだ」
そう言うと、ユリは口の端を吊り上げた。
僕はといえば、神の名前に思わず絶句する。
知っていると思うけど、『エンゲージ・ハザード』は恋愛スマホRPG。一方通行のバトル要素に加え、ヒロインとのコミュニケーションはチャット形式で行うというもの。
ここでのチャット形式は、一般的には外注によるスタッフ(アルバイトともいう)又はAIによってユーザーへの返信を行う。
つまり……ユリの言う神“ナカノヒト”とは『中の人』、外注スタッフもしくはAIだということだ。
でも、ユリの説明では神がノルズの民を……いや、人間を作ったのだと、はっきりと言った。
そうすると、『エンゲージ・ハザード』自体がAI生成によりキャラが生み出されていた可能性が高い。
うわー……このタイミングで『エンハザ』の開発秘話的な事実を知ることになるなんて、思いもよらなかったよ。
「あれ? でも『エンハザ』は、ちゃんとキャラデザを担当した絵師がいたよな……」
「? ハル君、何を言っているの?」
僕の独り言を聞き、訝しげな表情を浮かべて顔を覗き込むユリ。
なるほど。『エンハザ』のシナリオについては知っていても、そもそもここがゲームの世界だということまでは知らない、というか“ナカノヒト”がそれを教えていないんだろうな。
まあいいや、話を戻そう。
いずれにせよハロルドである僕をはじめ、リゼやクリスティア達といったヒロイン、カーディス、ラファエル等の主要キャラ、それに『ガルハザ』の主人公であるリリアナに攻略キャラのロイドなどは、ちゃんと絵師によって生み出されたキャラクターで間違いない。
では、“ナカノヒト”が生み出したとされる人間……それは、主要キャラ以外のモブ達は、AI生成で用意されたと考えて間違いないだろう。
だから『エンハザ』に一切登場しないモニカもノルズの民の血を引いているんだろうし、ユリにしてもそういうことだ。
これはなかなか罪深い事実だな。
「ハア……もう一つ教えてくれ。その“ナカノヒト”とやらが神だというのなら、僕達なんて簡単に消し去ることだってできたんじゃないのか? なのにそれをしないのは、神とほざいてもそんな力は持ち合わせていないってことだろ」
僕は溜息を吐き、皮肉を込めてそう尋ねる。
ユリの説明で大体のことは整理できたし、僕の考えが確かなら、それで間違いないだろう。
「そんなことはない! 実際にアイツに逆らったノルズの民は、私達の目の前で消されたんだ!」
それまでの壊れた様子から一変し、ユリが感情を露わにした。
なるほどなるほど。やっぱり彼は、その“ナカノヒト”に脅されていた可能性が高いね。
先程の考えを要約すると、ユリ達ノルズの民は“ナカノヒト”……つまりAIによって生成された存在。
だからノルズの民を生み出した張本人である“ナカノヒト”なら、作ったキャラを消すことなど造作もないってことだ。
で、本当の神である制作スタッフによって生み出された僕達主要キャラには、“ナカノヒト”は手出しすることができない。
だからその神気取りのAIは、自分が生み出したノルズの民を操って、こうやって干渉させたというわけだ。
本当の神によって与えられた役割――『エンゲージ・ハザード』を管理し、滞りなく運営するために。
「……これだから、プログラムって奴は……っ!」
「ハル……?」
「ハル、君……?」
あまりの怒りに爪が食い込んで血が滴り落ちるほど、僕は強く拳を握りしめる。
それを見たキャスもユリも、どこか戸惑っている様子だった。
でも、これで本当の敵がはっきりした。
僕達が倒すべきは、エイバル王なんかじゃない。
所詮は人間に作られただけの存在に過ぎない偽りの神、“ナカノヒト”こそが僕達の敵だ。
「ユリ。僕を今すぐ向こうの空間に戻せ」
「っ! ……そんなこと、私がすると思ってるの?」
「ああ、思っているよ。だって僕は、君の言う神を名乗るポンコツを破壊しに行くんだから」
鋭い視線を向けるユリに、僕ははっきりと言ってやった。
制作スタッフによるプログラムを……職務を守っているんだろうけど、だからといって簡単にキャラを切り捨ててしまうような、そんな真似をするAIなんてポンコツもいいところだよ。
何より……僕の『大切なもの』を傷つけた。
「そんなことできるわけがない! いいかい? アイツは神なんだ! その気になればいつだって、僕達を消すことができるんだよ!」
「ならなおさらだ。そんな物騒な神、この世界からいなくなってしまえ」
そしてそれを可能にするために、僕はこの世界に存在するのだから。
今、ようやく全てを理解したよ。
「ユリ」
「駄目だ! 絶対に認めない! ここにいれば君は、神から消されることはない! ……私とずっと、ここで生きていくことができるんだ」
アメジストの瞳からぽろぽろと涙を零し、ユリが僕に縋りつく。
ああ……これまでユリは、多くの人々が“ナカノヒト”によって消される瞬間を目の当たりにしてきたんだろうな。
自分自身も消されるかもしれないという、恐怖に晒され続けて。
だからこそ。
「約束しただろ? 『そんな運命、この僕がぶち壊してやる』って」
そう言って、僕はユリを抱きしめた。
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